研究課題
クルーズトリパノソーマが引き起こすシャーガス病は、感染を維持しながら長い無症状期(数年~数十年)を経て慢性期へと移行し最終的に患者を死に至らしめる。しかしながら、なぜ長期間排除されずに感染し続けるのかは全くわかっていない。本研究は、申請者らが誘導に成功した“シスト”について、その内部構造、代謝基盤、誘導因子等を種々の解析を用いて明らかにし、クルーズトリパノソーマの「休眠」というこれまで未知の現象が慢性シャーガス病の原因であることを示すことを目的とする。これまでの研究から、上鞭毛期型原虫の培養液にレクチンの一種、コンカナバリンAを添加すると内部に空胞を持つ原虫が誘導され、内部に娘細胞が形成されることを見出した。この形態がトキソプラズマなどで見られる「シスト」に類似していることから、我々はこれをシストと名付けた。本年度はその形態的特徴を詳細に解析するために、カナバリンAで72時間処理した原虫の微細構造を透過型電子顕微鏡で観察した。トリパノソーマ類の分裂は2分裂が基本であるが、シストではまずオルガネラの分裂がシスト壁内部で複数回起こり、オルガネラが集合して娘細胞が形成されることが明らかとなった。また、コンカナバリンAと結合する分子について、蛍光標識コンカナバリンAを用いた免疫蛍光染色を行ない鞭毛と鞭毛基部に強く結合していることを明らかにした。一般に、病原体のシストでは代謝が著しく低下しており、これによって薬剤抵抗性が生じることが知られている。そこでシストのエネルギー代謝の特徴を明らかにするためにメタボローム解析を行なった。その結果、シスト形成が進むにつれてアデニン量が著しく上昇(60倍以上)すること、ATP/ADP比が著しく低下することを見出した。これらの結果は、シストにおいて代謝活性が低下していることを強く示唆しており、アデニンの上昇はATPの分解に伴う現象と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度に予定していた、1)クルーズトリパノソーマシストの電子顕微鏡観察、および2)13C標識グルコースを用いたトレーサー実験によるメタボローム解析はほぼ完遂することができた。また、次年度に予定していた、3)プロテオーム解析を用いたCon Aリガンドとシスト特異的タンパクの同定についても予備実験を進め、クルーズトリパノソーマのシステインプロテアーゼであるクルジパインおよびチューブリンがコンカナバリンAと相互作用可能性を強く示唆するデータを得ている。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
本研究は基金で実施され、研究計画全体を見通した上で経費を配分することが可能となったため、年度単位の経費使用を遵守しつつも無駄を極力排除した結果、当該基金が生じた。次年度以降については当該基金を計上し、研究費の無駄な支出を排除しつつ柔軟に運用する予定である。
本研究は基金で実施され、研究計画全体を見通した上で経費を配分することが可能となったため、年度単位の経費使用を遵守しつつも無駄を極力排除した結果、次年度使用額が生じた。次年度以降については当該基金を計上し、研究費の無駄な支出を排除しつつ柔軟に運用する予定である。
次年度に予定している、プロテオーム解析を用いたCon Aリガンドとシスト特異的タンパクの同定、および哺乳類およびサシガメ体内におけるクルーズトリパノソーマのシスト形成の検証を進める。また、シスト特異的な分子が特定できれば慢性シャーガス病の診断、治療にも有用であると考えられ、これについても研究を進める予定である。
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