本研究は、免疫記憶を司るリンパ球が長期間にわたり腸管粘膜の防御の一線を担う自然免疫系を制御している可能性からその機序を解明し、ウイルスなどによる粘膜感染症への応用を図るものである。具体的には、感染幼虫が消化管粘膜組織に侵入するHeligmosomoides polygyrusの再感染に対して、幼虫の侵入を阻止する機序の解析を行った。 平成29年度は、前年度の初感染終息後10週における腸管組織の遺伝子発現プロファイル結果を元に、マスト細胞とM2マクロファージの関与を検討したが、両細胞の存在は感染幼虫の組織侵入阻止に関与していなかった。そこで改めて感染幼虫の感染動態を検討したところ、感染させた多くの感染幼虫は一旦胃粘膜組織に侵入し、その後小腸上部組織へ移動する(おそらく管腔に出て再侵入する)ことが明らかとなった。さらに、胃粘膜に侵入する時点では初感染と再感染で組織内侵入幼虫数に差が見られないが、小腸組織に移動する時点から徐々に差を生じ、結果として小腸上部組織で発育する幼虫の数に有意差が出ることを明らかにした。つまり、再感染では感染幼虫が胃組織に侵入することで免疫記憶細胞が活性化し、小腸組織へ再侵入する際に阻止(防御)が起きていることが推測される。 本研究成果として以下の二つの事柄を明らかにできた。1)これまで感染幼虫の組織侵入部位は小腸であると考えられてきたが、実際には多くの感染幼虫は一旦胃粘膜組織へ侵入し、次に小腸上部へ再侵入すること、2)従来から考えられてきた小腸管腔からの成虫の早期排除という再感染防御に加えて、感染幼虫が小腸組織へ侵入する際にも“侵入阻止”という形で感染防御が存在すること。 これらは、感染免疫のマウスモデルとして世界的に利用されている寄生虫の感染様式の見直しを示すとともに、組織を超えた防御免疫の存在を示したことで感染免疫学に与える影響は少なからず大きい。
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