本研究の目的は、ヒト体温における病原体の感染実験に適した無脊椎動物モデルとしてフタホシコオロギが適用可能か明らかにすることである。本年度までに、37度条件下において、フタホシコオロギがヒト病原性細菌である黄色ブドウ球菌、リステリア、緑膿菌の体液注射により感染死することを見出している。さらに、ヒト病原性真菌であるカンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラータ、クリプトコックス・ネオフォルマンスの体液注射によってもフタホシコオロギが感染死することを見出している。これらのヒト病原体のうち、27度の半数致死用量に比較して37度の半数致死用量が減少した病原体はリステリア、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・グラブラータであり、これらの病原体が温度依存性の動物個体に対する病原性上昇機能を備えていることが示唆されている。本年度は、リステリアの病原性上昇効果にリステリアの病原性アイランドLIPI-1が必要であるか検討を行った。リステリア野生株のコオロギに対する半数致死用量は、27度に比べて、37度において6分の1に減少した。一方、LIPI-1欠損株のコオロギに対する半数致死用量は、27度に比べて、37度において2分の1に減少した。以上の結果は、リステリアの温度依存性のコオロギに対する殺傷活性上昇にLIPI-1が必要であることを示唆している。37度においてリステリアが哺乳動物細胞に対する毒素産生を増強する上でLIPI-1が必要であるという知見と本知見を合わせて考えると、37度におけるLIPI-1を介した毒素産生の増強は動物個体に対する殺傷活性に寄与すると考えられる。
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