研究課題/領域番号 |
16K15276
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堀口 安彦 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (00183939)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 百日咳菌 / 気管支敗血症菌 |
研究実績の概要 |
申請者らは、ファージの組換え機構と大腸菌人工染色体(BAC)を組み合わせた 新規のゲノム組換え系(BBIシステム:BAC-based integrationシステム)を開発した。本年度はこの手法の有用性の検討(1)と、気管支敗血症菌ゲノムの長鎖DNA断片を百日咳菌ゲノムに安定導入した百日咳菌の気管支敗血症菌ゲノム相補ライブラリー(BbBAC/Bpライブラリー)を用いた予備的感染実験(2)を行った。 (1)BBIシステムを用いて、LPSにO抗原を持たない百日咳菌に気管支敗血症菌のO抗原合成遺伝子領域(wbm領域:約32 kb)を導入し、その性状を検討した。wbm領域を導入された百日咳菌は、気管支敗血症菌と同等のO抗原を安定的に発現することを確認した。このことはBBIシステムによって機能的な遺伝子領域を百日咳菌に導入することが十分可能であることを示している。 (2)BBIシステムを用いて、589クローンからなるBbBAC/Bpライブラリーを作製した。ライブラリーに導入された気管支敗血症菌ゲノムDNA断片の平均長は30 kb程度であった。ここから、589 x 30 kb = 17670 kbと概算して、5.3 Mbの気管支敗血症菌ゲノムを約三倍の冗長性でカバーしていると考え、予備実験としてこのライブラリーをラットに経鼻感染させた。感染16日後にラット鼻腔から菌を回収して再度感染実験に供し、感染23日後に再び菌を回収した。このサンプルからゲノムを回収し、挿入DNA断片塩基配列を決定したところ、挿入断片には鉄輸送関連遺伝子xが高い頻度で回収されていることがわかった。しかし、クローン化した遺伝子xのみを導入した百日咳菌のラット感染・定着能は野生型親株のそれと変わらなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、気管支敗血症菌ゲノムDNA断片を百日咳菌に導入したライブラリーの作製を行い、さらに予備実験レベルながらライブラリーのラット感染、菌の回収および導入断片の遺伝子の同定までを実施することができた。28年度は予備実験として実施したため、ラット感染性を百日咳菌に付与する、有望な遺伝子の同定には至らなかったが、BBIシステムを用いたO抗原発現百日咳菌の作製とその性状を確認し、機能的な遺伝子領域が安定的に百日咳菌に導入されることを確認できた意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
28年度の予備試験により、ライブラリー作製からラット感染実験、さらに菌の回収と挿入遺伝子断片の同定までに必要な仕事量や期間が想定できるようになり、一年間で充分余裕のあることがわかった。そこで、29年度は、BBIシステムのプロトコールをさらに整備して、さらに大きなDNA断片を導入する条件、ライブラリーの回収を高効率にする条件、感染条件(感染ルート、菌の接種方法、感染期間、菌の回収組織)などを検討し、当初の目的通り、百日咳菌にラット感染性を付与する遺伝子(群)の同定に迫る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、当初計画になかったBBIシステムの確認実験を行い、その影響で期間的な余裕がなく、ライブラリーの作製から動物実験、遺伝子の塩基配列決定による同定など多額の費用が要求される実験を予備的試験にとどめた。そのため表記の次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は初年度の残額と併せた予算を費消して、多数回のライブラリー作製とそのチェック、大規模な動物実験と回収された遺伝子の塩基配列決定と同定を集中的に行い、本研究課題の目的を達成する予定である。
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