申請者らは、ファージの組換え機構と大腸菌人工染色体(BAC)を組み合わせた 新規のゲノム組換え系(BBIシステム:BAC-based integ rationシステム)を開発した。28年度においてはこの手法の有用性の検討を、LPSのO抗原を生成する気管支敗血症菌の遺伝子領域をO抗原を持たない百日咳菌に導入し、O抗原のあるLPSを発現させることに成功した。29年度においては当初の目的の達成を目指して、気管支敗血症菌ゲノムの長鎖DNA断片を百日咳菌ゲノムに安定導入した百日咳菌の気管支敗血症菌ゲノム相補ライブラリー(BbBAC/Bpライブラリー)を用いて、ラットに感染する百日咳菌の作製とその責任遺伝子の同定を試みた。 前年度の予備実験においては、ゲノム長 5.3 Mbpの気管支敗血症菌に対して3倍の冗長性で全ゲノムをカバーするライブラリーを作製したが、ラット感染性を百日咳菌に付与する遺伝子は同定できなかった。そこで今年度は平均長15 kbpの気管支敗血症菌ゲノム断片を持つ6641クローンを分離して実験に供した。このライブラリーは気管支敗血症菌ゲノムを約20倍の冗長性でカバーする。このライブラリーの断片をBBIシステムで百日咳菌に導入して回収できた百日咳菌932クローンをラットに感染させたが、野生型百日咳菌と比較して有意に定着の安定したクローンを得ることはできなかった。一方、前年度にBBIシステムを用いて作製したO抗原のあるLPSを発現する百日咳菌の血清抵抗性を検討したところ、野生型に比べて血清抵抗性が向上していることがわかった。 以上の結果から、本研究で開発したBBIシステムは任意の長鎖遺伝子を受容菌に導入する目的には有用であることはわかったが、本研究課題の目標であったランダムにゲノム断片を導入して百日咳菌の宿主特異性を変更させるまでには至らなかった。
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