研究実績の概要 |
結核ワクチンであるBCGにおいてチミジル酸合成酵素の遺伝子thyXをプラスミドに乗せて過剰発現させたところ、その増殖速度は顕著に促進された。古典的なチミジル酸合成酵素の遺伝子thyAを同様に過剰発現させてもその増殖速度に大きな変化は認められなかった。その理由を探るために昨年度RNAseqによりthyX過剰発現株と親株の遺伝子発現を比較した。今年度はRNAseqの結果、thyX過剰発現株と親株の間で発現量に差の見られた遺伝子に着目し、それらが増殖速度を変化させる原因であるのか、あるいは増殖速度を変化したためにその発現量が変化したのかを追求した。リボゾームタンパク質の遺伝子が多くがその発現量を変化させたが、これらは二次的なものと推測した。葉酸代謝経路ではジヒドロ葉酸-テトラヒドロ葉酸-5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸および5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸-ジヒドロ葉酸・テトラヒドロ葉酸の経路を担う酵素の遺伝子の発現が顕著に高くなっていた。ジヒドロプテロイン酸-ジヒドロ葉酸と5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸-5,10-メテニルテトラヒドロ葉酸それぞれの反応を担う酵素の遺伝子の発現は低下していた。次にジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子をBCGに過剰発現させるとthyXの過剰発現同様にBCGの増殖速度は促進された。しかし、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ遺伝子およびアミノメチルトランスフェラーゼ遺伝子の場合には増殖速度に変化は見られなかった。これらの結果から、テトラヒドロ葉酸の合成量あるいは蓄積量がBCGの増殖速度に関係していることが推測された。
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