研究実績の概要 |
腸管出血性大腸菌(EHEC)の志賀毒素(Stx)をコードするStxファージについて、ファージ-大腸菌-原生生物というエコシステムの観点からその多様化のメカニズムを解明する。大腸菌O157のStxには、Stx1、Stx2a、Stx2cが存在するが、それぞれ異なるファージにコードされている。Stx2aファージは、さらに4つのメジャーサブタイプ(Stx2a_alpha, Stx2a_beta, Stx2a_gamma, Stx2a_epsilon)に分類される。 各ファージの大腸菌K-12溶原株の作成を行った。Stx2a_alpha, Stx2a_beta, Stx2a_gammaについては、多数の溶原株が取得でき、シーケンスにより、ファージゲノムに変異がないことを確認した。一方、Stx1、Stx2c、Stx2a_epsilonについては、プラークが形成されなかったため、実験系をスケールアップし、繰り返し行ったところ、いずれも数個の溶原株を得ることができた。しかし、シーケンスを確認したところ、すべて配列が組み変わったキメラファージとなっていたため、これらの溶原株の取得は断念した。 細胞性粘菌の感染モデル系は、昨年度、構築した。しかし、予想と反して、細胞性粘菌は、Stxを産生する大腸菌を捕食しても、生育に影響しなかった。興味深いことに、Stxを産生する大腸菌をより積極的に捕食する傾向があった。今後は、この要因についても解析したい。また感染モデル系としては、アメーバーなど他の原生生物の使用を検討する。 また、大腸菌O26間におけるStxの伝播を解析した。O26の優勢系統では、Stx1が安定的に保持されているのに対し、Stx2ファージは、様々な亜系統の株に散発して存在していた。このことから、Stx2ファージのO26への高頻度な感染と脱落が自然界で繰り返し起きていることが推察された。
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