研究課題/領域番号 |
16K15281
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
村松 正道 国立感染症研究所, ウイルス第二部, 部長 (20359813)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ゲノム挿入 / 発ガン / 変異 / ポロオーマウイルス |
研究実績の概要 |
ヒトポリオーマウイルス(HPyV)は、健常人に広く不顕性感染しており、重度免疫不全時以外は病原性を示さず、健常人には無害な常在ウイルスとされている。 本研究では、この常在性ポリオーマウイルスが、癌を誘発する活性があるかを探索する研究である。一般に発ガンプロセスには宿主ゲノムへの変異蓄積が欠かせないので、常在ウイルスがゲノム変異を促進するか測定することで、常在性ポリオーマウイルスの発ガンにおける寄与を評価することが可能と考えている。変異のうちウイルスDNAの宿主ゲノム挿入は、ガンゲノム進行という観点からもっとも大きな影響を及ぼす。 平成29年度は、アプローチとしては主に臨床検体と細胞株の系の2方面で研究を展開した。臨床検体では、子宮頸がんや咽頭がん検体でポリオーマウイルスのDNAの増幅を試みたが、再現性ある結果とはならなかった。一方、メルケル細胞癌検体では、メルケル細胞癌ポリオーマの増幅が可能で、実際DNAシークエンスを確定できた。一方、培養細胞の系では、独自開発した細胞系を用いてゲノム挿入を解析している。この細胞系はヒトポリオーマウイルスのゲノムに薬剤耐性遺伝子を挿入した系で、薬剤存在下で培養するとゲノム挿入が観察できるユニークな実験系である。この独自細胞系を使い、どのような時にウイルス変異およびゲノム挿入が観察されるか様々な条件を検討している。その結果、抗ウイルス因子の一つであるAPOBEC3が発現する時にはゲノム挿入や変異率が上昇する傾向が見られた。またウイルスコピー数もゲノム挿入率に重要なファクターである可能性が出てきた。 一方この細胞系の弱点も浮き彫りになってきた。ゲノム挿入を観察するためには、1ヶ月以上培養期間が必要で、また細胞のクローニングをしないと、サザンブロットでは、ゲノム挿入を捉えることができない。したがって解析の効率を上げるにはより良いアッセイ系が望まれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全ての計画が期待した結果になっている訳ではないが、臨床検体からはメルケル細胞癌検体からポリオーマウイルスを増幅するのに成功した。ウイルスゲノム挿入を見る細胞系は、条件の最適化の結果、ある程度条件が絞れた。一方、ゲノム挿入を解析するまでに長期間の培養が必要であることが弱点であることもわかってきた。一方、ゲノム挿入に影響する因子としてウイルスゲノムコピー数や宿主因子の発現量が重要であることがわかってきた。 平成29年度は、研究代表者である村松が金沢大学から国立感染症研究所に移動した。この影響があり、若干研究がスローダウンしたが、移動によって遠隔地からの研究チームの指導統括はテレビ会議システムや頻繁の連絡でできるだけ補填したい。
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今後の研究の推進方策 |
臨床検体を用いたアプローチはメルケル細胞癌サンプルを用いた解析を進める。 特にウイルスゲノム挿入や変異率、コピー数を決めたい。 一方、細胞系のアプローチでは、前年度にウイルスゲノム挿入を促進する予備的知見をみた因子(APOBEC3やウイルスコピー数)については、再現性を確定させて、どのAPOBEC3が重要か、APOBEC3のどのような活性が重要か検討していく。また紫外線、活性酸素や阻害剤等とのコンビネーションで、ウイルスゲノム挿入が上昇するかも検討し、ポリオーマウイルスが宿主ゲノムに挿入される現象を解析していく。
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