研究実績の概要 |
ヒトポリオーマウイルスは、健常人に広く不顕性感染しており、重度免疫不全時以外は病原性を示さず、健常人には無害なウイルスとされている。 本研究ではこの常在性ポリオーマウイルスが、癌を誘発する活性があるかを考察するための研究である。一般に発ガンプロセスには宿主ゲノムへの変異蓄積が欠かせ ない。またウイルス発がんの場合、宿主ゲノムの変異に加えてウイルスゲノムの貢献もある。近縁のパピローマウイルスは、子宮頸がんを誘発する際は、宿主ゲノムに変異が蓄積するのみならず、ウイルスDNAが宿主のゲノムに組み込まれるウイルスゲノム挿入現象を伴う。パピローマウイルスの場合、このゲノム挿入がE6, E7などのウイルス由来癌遺伝子の恒常的発現を起こし、発がんを大きく進めると考えられている。そこで本研究は同様のことが常在ウイルスであるポリオーマウイルスで起こるかを検討した。用いたポリオーマウイルスは、MCVで比較的最近発見されたウイルスで、自然感染やウイルス複製を観察できる培養系は確立されていない。したがってこのウイルス発ガンの分子機序の研究は極めて遅れている。本研究では、ウイルスゲノム挿入が培養細胞で効率よく観察できる系を開発し、そこからMCVのウイルス発ガンの分子機序解明を目指している。これまで我々が確立した薬剤耐性遺伝子を持つMCVウイルスのゲノム挿入を薬剤選別するアッセイ系は、ゲノム挿入の評価がサザンブロットであったため、解析までの時間と労力を要したので、その効率化を検討した。その結果最近開発されたDNA polymeraseの伸長反応を多重に繰り返す方法にてゲノム挿入がサザンブロットをせずとも、より早期で観察できることがわかった。本研究によりウイルス発ガンに重要なプロセスであるウイルスゲノム挿入のアッセイ系の効率化が可能になった。今後、その分子機序の解明が加速されることが期待される。
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