研究課題
内分泌系はホルモンによって生体の恒常性を制御しているが、免疫系にも影響を与えることが知られている。グルココルチコイドは副腎皮質から産生される免疫抑制効果をもつステロイドホルモンである。研究代表者らは、T細胞においてグルココルチコイド受容体(GR)がIL-7Rα遺伝子のエンハンサーに結合して転写を活性化する可能性を示してきた。しかし、内在性のグルココルチコイドがIL-7Rの発現を制御しているかどうか、またその生理的意義が不明である。この問題を明らかにするために、IL-7Rα遺伝子エンハンサーのGR結合モチーフに点突然変異を導入したIL-7Rα-GRmutマウスを解析した。マウスの血中のグルココルチコイド濃度は夜に高く昼に低い。まず、正常マウスT細胞のIL-7R発現レベルも夜に高く昼に低い日内変動を示したが、IL-7Rα-GRmutマウスではこの変動が消失していた。また、T細胞特異的にGRを欠損するCD4Cre GRcKOマウスでも同様の結果を示した。さらに、正常マウスでは脾臓のT細胞数が夜に増加し昼に減少する一方、末梢血中では逆に昼に増加し夜に減少した。これに対し、二種類の変異マウスではこのようなT細胞数の日内変動が見られなかった。また、正常マウスでは脾臓へのホーミングに必要なCXCR4の発現レベルがIL-7Rと同様の日内変動を示したが、二種類の変異マウスではその変動が消失していた。さらに、リステリア菌感染に対する免疫応答が昼に比べて夜に上昇するが、二種類の変異マウスではその応答が低下していた。以上の結果から、グルココルチコイドはIL-7RとCXCR4の発現を誘導することで、T細胞の体内動態と免疫応答を制御していることが示され、内在性のグルココルチコイドが免疫機能を高める機能を持つことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
日内変動する生体内のグルココルチコイドが、エンハンサーに結合することでIL-7Rの発現を上昇させ、T細胞の体内動態と免疫応答能を制御することをほぼ証明することができた。以上のことから、ほぼ満足できる達成度と判断した。
IL-7Rα-GRmutマウスのT細胞におけるIL-7R発現の日内変動を、より細かい時間設定で解析する。また、IL-7Rα-GRmutマウスのT細胞において、GRのエンハンサーへの結合が障害されていることをクロマチン免疫沈降法で確認する。
当初計画よりも順調に実験が進んだために、使用した消耗品が少なかったために、使用額が少なくて済んだ。
次年度は、多数のマウスを使った時間経過を解析する予定のため、半分以上をマウス飼育室の使用料として、残りを消耗品代として使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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