研究課題/領域番号 |
16K15293
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
新 幸二 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (60546787)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 口腔細菌 / Th1 / クレブシエラ |
研究実績の概要 |
ヒトの腸管内腔には数百種類の腸内細菌が存在し、宿主の様々な生理機能に影響を与えている。そのため腸内細菌叢を構成する細菌種の多様性の減少や特定菌種の増減など腸内細菌異常(dysbiosis)が様々な疾患の発症と関連していることが明らかになってきている。しかしながら、どのような原因でdysbiosisが起こるのか、どのような細菌種が疾患発症に直接関与しているかについては明らかになっていない。そこで本研究では、口腔内細菌に着目し、研究を進めた。まず、クローン病患者の唾液中に存在していたK. pneumoniae 2H7株が腸管に定着し強いTh1細胞の誘導を引き起こすことが明らかになった。また、ATCCから購入した他のK. pneumoniaeと比較した結果、2H7株が特にTh1細胞を強く誘導したが、その他の株でもばらつきはあるもののTh1細胞を誘導することがわかった。現在、このTh1細胞の誘導能と相関するゲノム領域、遺伝子発現、メタボロームを探索している。腸炎への関与については、無菌IL10欠損マウスに2H7株を定着させると強い腸炎が引き起こされたことから遺伝的に炎症が起こりやすい状況下ではK. pneumoniae 2H7株が強い腸炎を引き起こすことが想定される。さらに通常の腸内細菌が存在しているSPFマウスにK. pneumoniaeを経口投与しても腸内に2H7株が定着することはないが、アンピシリン等の抗生剤を飲水投与し腸内細菌のdysbiosisを誘発すると2H7株が定着することが分かった。以上のことから、クローン病患者の口腔に存在しているK. pneumoniaeは通常腸管に定着しないように制御されているが、腸内細菌のdysbiosisが起こると腸管に定着し、Th1細胞の活性化を通して腸炎の増悪に働いていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸内に定着し、腸管免疫系に強い影響を与える口腔細菌を探索するため、クローン病患者の唾液を無菌マウスに投与した。投与6週間後に腸管からリンパ球を採取し、フローサイトメトリーにより、免疫細胞の解析を行うとクローン病患者#2の唾液を投与したマウスにおいて強いTh1細胞の誘導が見られた。そこで次にTh1誘導に関与している細菌を特定するため、このマウスの腸内細菌を培養し優勢菌である8菌株を単離した。この8菌株の中にTh1細胞を強く活性化する細菌を調べたところ、Klebsiella pneumoniae 2H7株が唯一Th1細胞を活性化したため、K. pneumoniae 2H7株がクローン病患者#2の唾液投与マウスにおけるTh1細胞誘導の原因細菌であると特定した。そこで次にK. pneumoniae 2H7株が腸炎に関与しうるかを検討するため、自然に腸炎を発症するIL10欠損マウスを無菌化し、2H7株を定着させたところ比較対象のE. coli 2B1株と比較して強い腸管炎症が惹起された。また、このK. pneumoniae 2H7株は通常の腸内細菌が存在しているSPFマウスに経口投与しても腸内定着することはないため、常在腸内細菌が定着阻害を行っていると考えられた。一方で、アンピシリン等の抗生剤を飲水投与し腸内細菌のdysbiosisを誘発すると2H7株が定着することから、クローン病患者の口腔に存在しているK. pneumoniaeは通常腸管に定着しないように制御されているが、腸内細菌のdysbiosisが起こると腸管に定着し、Th1細胞の活性化を通して腸炎の増悪に働いていることが示唆された。K. pneumoniae 2H7株によるTh1細胞誘導機構の解析については現在行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
同定したK. pneumoniae 2H7株によるTh1細胞誘導メカニズムを明らかにするため、以下の手順で研究を進める。 1. Th1細胞を強く誘導する2H7株とほとんど誘導しないATCC購入株から細菌ゲノムを精製し、次世代シークエンサーでゲノム解読を行う。またこれらの細菌を無菌マウスに定着させ、大腸内容物または盲腸内容物から細菌由来のDNAおよびRNAを抽出し、メタゲノム解析、メタトランスクリプトーム解析を行う。また同時に大腸内容物または盲腸内容物からメタボローム解析を行う。以上の解析を統合して、Th1誘導に関与している遺伝子、分子を同定する。 2. 上の解析により同定された候補因子をin vivoにおいてTh1細胞誘導に関与しているか解析する。まずはTh1細胞を誘導しない細菌を定着させたマウスに候補因子を投与することでTh1細胞が誘導されるかを検討する。一方で強く誘導する細菌から候補遺伝子を欠損させた変異株を作成し、無菌マウスに投与することでTh1細胞が誘導されなくなるかを検討する。 3. 上の解析においてTh1細胞を誘導する分子が同定された場合、誘導分子を投与したマウスと投与していないマウスから上皮細胞、樹状細胞、T細胞を単離しRNA-seqを行う。この解析から誘導分子による刺激でどのような遺伝子発現に変化が起こるか、どのようなシグナル経路が動いているかについて解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に行う予定であったトランスクリプトーム解析について、マウス便からのRNA精製方法やRNAの純度などの条件検討に時間がかかったため実施できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予定から特に大きな変更はないが、昨年度予定していたトランスクリプトーム解析を次年度早々に行う予定である。
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