研究課題/領域番号 |
16K15299
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
藤江 敬子 筑波大学, 医学医療系, 助教 (80623959)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多剤処方 / 不適切処方 / ポリファーマシー / 高齢者 / 薬物療法 / 薬剤有害事象 / 医療費 / 国民皆保険 |
研究実績の概要 |
①調剤薬局来局者における多剤処方の実態と不適切処方の有無:調剤薬局12店舗で2015年の連続した40日間に取り扱った処方箋のうち、75歳以上の約8000件につき患者毎の薬剤数をカウントした。患者は中央値3剤(最大25剤)の慢性期内服薬(全身作用型外用薬を含む)の処方を受けており5剤以上のポリファーマシー状態にある患者が43%を占めた。日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法 ガイドライン2015」より作成した不適切処方のリストに基づき、潜在的不適切処方(PIMs)の抽出を行った。PIMsは27%の患者に認められ、ポリファーマシー状態の患者での出現率が高く、100床未満の小規模医療機関からの処方が相対的に多かった。薬効別で最も多いPIMsは睡眠薬で、H2受容体拮抗薬、糖尿病薬、α遮断薬と続いた。ROC解析の結果、PIMs出現のカットオフ値は総薬剤数で4.5剤、慢性期内服薬数で3.5剤となり、処方薬剤数が5剤以上となったらPIMsの有無を検討すべきと考えられた。 ②入院高齢者における多剤処方の実態と不適切処方の有無:協力病院(二次救急病院)の電子カルテより入院時持参薬(外用薬を除く)等のデータを収集した。2015年の1年間に入院した80歳以上の患者約2000例分のデータから、①と同様に薬剤数とPIMsの有無を調査した。重複とデータ不備を除く約1200例の平均入院時持参薬数は6.2剤(最大24剤)で、64%がポリファーマシー状態にあり、32%にPIMsが認められた。高血圧、糖尿病、心疾患の合併が薬剤数と強い関連を示した。薬効別PIMsは①と同様の傾向であり、睡眠薬のPIMsがある210例には睡眠薬の副作用と推定される事象が延べ161件発見された。 ③調剤薬局来局者に対する受療行動に関するアンケート調査:倫理委員会承認済み。調査場所として調剤薬局チェーンの内諾済み。開始準備中。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・調剤薬局と病院の薬剤データを用いる研究は、当初予定していた最低限の集計と分析を終えることができた。 ・上記の結果について、学会発表および修士論文としてまとめることができた。 ・潜在的不適切処方に該当する個別薬剤リストの作成に予想以上の時間を要し、調剤薬局・病院ともに調査対象を拡大したり、より深いデータの分析をしたりする時間を確保できなかった。 ・ポリファーマシー(多剤処方)のクライテリアがいまだ定まっていないこと、使用したガイドラインの妥当性に関する議論があることなど、研究継続に影響する環境的要因により計画の見直しを一時検討していた。 ・以上の状況から、平成29年度に予定していたアンケート調査に着手できず、平成30年度に延期せざるを得なくなった。
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今後の研究の推進方策 |
・平成29年度に倫理承認済みのアンケート調査を早急に開始し、完了させて結果を集計・解析する。 ・計画中の市民または薬剤師を対象としたアンケート調査について、研究計画策定および質問票作成して倫理委員会に申請し、承認後に実施する。 ・「多剤処方の実態と不適切処方の有無の調査」に関し、データの増大と更なる解析が可能であれば継続する。その状況によっては、アンケート調査は1回にとどめる。 ・いずれの研究も、学会または論文発表が可能となるよう準備する。
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次年度使用額が生じた理由 |
病院の電子カルテ調査は大学院生が担当したため交通費のみで済んだ。また、調剤薬局の薬歴データは本社より電子的に提供されたことから、調査のための費用が不要であった。そのため、研究協力者用に想定していた人件費・謝金の支出が発生しなかった。情報収集、および関連研究者との交流のため、学会・研究会等への参加回数を増やしたが、東京近郊が多かったため、旅費も見込み額を下回った。
平成30年度は大学院生等の研究協力者がいないため、新規雇用を予定しており、人件費の支出が見込まれる。研究成果発表のための学会参加費、旅費、論文投稿料なども必要であり、それらの目的で残額の使用を予定している。
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