近赤外光を吸収して強い光音響シグナルを示す金属粒子を、ドラッグデリバリーキャリアとして使用されるリポソームの内水相に数多く内包し、また、リポソーム表面にがん標的抗体を付加した光音響分子プローブを創製することで、他に類を見ない、高感度な光音響分子イメージングを目指す。 さらに、プローブが光音響シグナルを示す過程で生じる熱を利用すれば、がん細胞の死滅が期待できるため、本研究では、光音響法の治療への展開をも着想し、生体に安全な近赤外光を利用して、光音響法に基づくがんの診断と治療を同時に達成可能な新たなセラノスティックス(Therapeutic+Diagnositc)法の構築を目指すことを目的とする。
本年度は、酸化鉄ナノ粒子内包リポソームについて、Human Epidermal Growth Factor Receptor 2(EGFR2;HER2)を標的とするモノクローナル抗体(ハーセプチン)を導入し、その物理化学的特性を評価するとともに、細胞に対する結合性を評価した。その結果、平均粒子径約80 nmのアニオン性ナノ粒子が得られ、脂質1 mgあたりの抗体濃度として2種類のナノ粒子が合成できたため、これらのHER2認識能を評価した。その結果、本ナノ粒子は、がん細胞に対してHER2特異的な結合性を示すことを明らかとした。また、酸化鉄粒子内包リポソームの溶液について光音響シグナルを測定した結果、同濃度の酸化鉄ナノ粒子の溶液と比較して高い光音響シグナルを認め、本薬剤を用いる高感度光音響イメージングの可能性を示した。さらに、本ナノ粒子に対して、近赤外レーザー光を照射することにより、温度上昇を認め、熱によるがん治療の可能性を示した。
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