研究課題
H28年度は、炎症と蛋白尿を呈するアドリアマイシン腎症(AN)マウスに対するα1-酸性糖蛋白質(AGP)の治療効果と腎障害抑制機序について検討し、以下の知見を得た。1)ANマウスに対するAGPの治療効果を検討した。アドリアマイシン投与直後より、AGP 5 mgを5日間連続腹腔内投与し、3週間後の尿蛋白と腎組織障害を評価した。その結果、AGP の投与は、蛋白尿を減少させ、腎組織障害を改善した。その際、腎臓におけるTNF-αとマクロファージ(Mφ)マーカーであるF4/80 の発現量が減少していた。2)AGPによる腎障害抑制機序の解明を目的として、アドリアマイシン投与1週間後における外因性AGPの腎臓内局在を免疫染色にて確認した。その結果、投与したAGPの一部は腎糸球体に集積していた。この時、AGPの投与はANマウス腎臓において、M2型MφマーカーであるCD163 mRNA発現を有意に上昇させた。3)Mφの極性に及ぼすAGPの効果について、PMA刺激ヒト単球様THP-1細胞を用いて評価した。その結果、興味深いことにAGP の添加濃度依存的にIL-10 とCD163 (M2マーカー)の発現上昇が観察され、iNOS (M1マーカー) 発現は減少していた。以上の結果から、外因的なAGPの投与は糸球体バリア機能の保持による尿蛋白の抑制効果に加え、Mφに起因する炎症抑制効果の2つの作用により腎保護効果を有することが示唆された。本研究成果は、炎症と糸球体バリア機能を標的とした新たなCKD治療薬開発に向けての有用な基礎的情報なると思われる。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者と分担者は熊本地震での被災のために研究スタートが遅れてしまった中でも、概ね目標に向けての研究を展開し、着実に成果を上げてきたと思われる。また代表者と分担者、連携協力者は有機的連携を実践し、相互の協力体制が築かれており、概ね順調に進展していると判断される。
H28年度は震災の影響で、震災直後は研究活動が大きく出遅れたものの、現在は研究環境は概ね回復している。ただし、現在、薬学部動物舎の感染クリーンアップのために、やや動物実験が遅れる可能性が予想される。今後、代表者と分担者の有機的連携により研究展開を進める予定である。
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