研究課題/領域番号 |
16K15321
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
森岡 弘志 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 教授 (20230097)
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研究分担者 |
小橋川 敬博 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 准教授 (90455600)
佐藤 卓史 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 助教 (70555755)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 一本鎖抗体 / 終末糖化産物 / 機能性抗体 / ファージディスプレイ法 / 蛍光プローブ |
研究実績の概要 |
本研究では、生体内に局在する終末糖化産物(AGEs)修飾タンパク質を高感度でin vivoイメージングできる新規機能性抗AGEscFv分子の創製し、糖尿病血管合併症の発症・進展メカニズムの解明と新たな治療戦略の開発を目的としている。 生体内で生じる糖化修飾体としてGA-pyridineを標的とし、既に作製されているGA-pyridineを特異的に認識する一本鎖抗体(AGE73scFv)をもとに、ファージディスプレイ法によって、抗原親和性ならびに熱安定性を向上させたscFv分子(73MuL/V94A)の作製に成功した。scFv分子の抗原親和性ならびに熱安定性は、SPR、ITC、DSC、DSF等の物理化学的測定法により評価した。今後、より優れたscFv分子の作製を目指して、同様の実験を続けている。 また、scFvに血中滞留性を保持させるために、ペプチド鎖転移酵素Sortase Aを用いた酵素的連結法により、scFv分子のC末端側にヒト血清アルブミン(HSA)を融合させた機能性scFv分子、73MuL/V94AscFv-HSAの作製を行った。ICRマウスを用いた実験において、このHSA融合scFv抗体は、intactのHSAと同程度の血中滞留性を示した。 一方で、scFvのVLとVH領域をつなぐリンカー部分にトリプトファンを受光部とするランタノイド金属を配位するペプチド配列(LBP)、すなわち、ランタノイド蛍光プローブを導入したscFv分子(VL-LBP-VH)を作製した。この分子の抗原結合活性を測定したところ、十分な抗原結合活性は保持していたが、テルビウムによるランタノイド蛍光は観察されなかった。今後、リンカー配列の最適化、あるいは、ランタノイド蛍光プローブの導入部位の選択が必要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
error-prone PCRによるVH、VL遺伝子へ変異の導入とバイオパニングによるスクリーニング条件の検討により、比較的高性能なGA-pyridine特異的scFv抗体を獲得することに成功した。今後は、生体内温度でもより高い抗原結合活性有するscFv分子の獲得を目指して、さらに同様の実験を継続する。scFv分子の抗原親和性ならびに熱安定性の評価は、現在行っているSPR、ITC、DSC、DSF等の物理化学的測定法が適していることが示された。 HSAは、宿主としてメタノール資化酵母を用い、既に報告された方法によって調製している。調製にやや時間を要するが、純度の高いタンパク質が得られることから継続して本方法を採用する。 配列特異的にペプチド転移反応を触媒するStaphylococcus aureus由来のSortase Aは、比較的効率よく、scFvとHSAを連結できたことから、今後もこの方法を用いることにした。 scFvのVLとVHをつなぐリンカー領域にLBPを導入した分子は、高い抗原結合性を示したものの、ランタノイド蛍光の観測は認められなかった。scFvのリンカー領域は、ランタノイド蛍光プローブの導入部位として適していない可能性が示唆されたので、今後はscFvとHSAの結合領域、または、 HSAのC末端側領域に数種類の代表的なLBP配列の導入を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に作製することができた73MuL/V94AscFv-HSA融合分子について、本年度は、これまでに報告されている様々なLBP配列をscFvとHSAの連結している領域、ならびに、HSAのC末端側領域に導入する。また、HSAのN末領域に存在するカルシウムイオン結合部位(Helix-Loop-Helix領域])に変異を導入し、ランタノイドイオン結合部位への改変を試みる。さらには、LBP配列をタンデムにつなげると発光強度が約3倍上昇することが報告されていることから、HSAのC末端側領域にタンデムLBPを導入した融合分子も同様に構築する。ランタノイドイオンとして、テルビウムの他にユーロピウムの導入も試みる。さらに、より優れたscFv分子の作製を目指して、scFv分子のスクリーニング実験を続ける。 ランタノイド蛍光を観測することができた分子を用いて、糖尿病モデルマウスに静脈注射により投与し、in vivoイメージング解析を行う。IVIS Imaging Systemを利用して、血管、臓器(腎臓、肺、膀胱)等の観察を進め、機能性抗AGEscFv-HSA融合分子の体内動態ならびにAGEsの局在と疾患の関連性について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
金額が小さいので適切な物品購入を行うことが困難であったことから、次年度分の助成金と合せて使用することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(試薬類、プラスチック器具類)として使用する。
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