研究課題/領域番号 |
16K15323
|
研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
田島 雅道 明海大学, 歯学部, 講師 (70130995)
|
研究分担者 |
田草川 徹 明海大学, 歯学部, 講師 (40538443)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ビスホスホネート / 顎骨壊死 / 骨芽細胞障害 / 細胞内取り込み経路 / Pit-2 / リソソーム |
研究実績の概要 |
骨粗鬆症やがんの骨転移に骨吸収抑制薬ビスホスホネート(BPs)を投与されている患者の一部に、口腔外科的処置後に予後不良の重篤な顎骨壊死(BRONJ)が発症している。この医科と歯科の谷間で苦しむ患者に対して、未だに有効な治療法がないのが現状である。本研究は、その病態解明と治療法の確立を目的としている。BPsの作用機序は破骨細胞の骨吸収機能抑制にあるが、BRONJ発症患者では臨床濃度のBPsでも骨芽細胞に顕著な障害を引き起こさせる特別な要因が関与していると考え、BPsとの併用で骨芽細胞障害を増強させる化合物を広くスクリーニングする中で、リン酸水素イオン濃度の増加がBPsの骨芽細胞障害を顕著に増強することを見出した。しかも、リン酸二水素イオンよりもリン酸一水素イオンの方が顕著にBPsの骨芽細胞障害を増強することが判明した。そこでその骨芽細胞障害機序を調べたところ、リン酸水素イオン濃度の増加がBPの骨芽細胞内への取り込みを増大させていることが、蛍光標識BPを用いた解析から判明した。さらに、リン酸水素イオン濃度の増加が、骨芽細胞のリン酸トランスポーターPit-1およびPit-2の発現を顕著に誘導することを免疫組織学的に明らかにした。そして、BPの骨芽細胞内への取り込みがPit-1ではなく、主にPit-2を経由していることをsiRNA法によって特定した。また、リン酸水素イオン濃度増加によるBPsの骨芽細胞障害においても、24時間以降48時間程度の時間経過を要することから、BPの骨芽細胞内分布を詳細に解析した。BPsが骨芽細胞のミトコンドリアの膜電位を上昇させ、酸化ストレスによる細胞内活性酸素種(ROS)の発生応答の低下を引き起こしていたことから、BPsのミトコンドリアへの影響を強く疑ったが、細胞内分布はミトコンドリアではなく、リソソームにBPが多く集積することが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初の計画では、高濃度のグルタミン酸やアスパラギン酸によるBPsの骨芽細胞障害抑制作用から、BPsの骨芽細胞障害機序を探索する予定であった。ところが、BPsによる骨芽細胞障害を増強する化合物のスクリーニングの中から、いくつかのリン酸化合物が低濃度のBPsによる骨芽細胞障害を著しく増強することを見出したため、この骨芽細胞の障害増強機序の解明こそが、BPsによる骨壊死のより本質的な病態解明につながると判断して研究を進めることにした。その結果、リン酸化合物の中でも非常に単純なリン酸一水素ナトリウムが最もBPsの骨芽細胞障害を増強する作用が強いことを明らかにした。さらにリン酸一水素カリウムでも同様であったことから、リン酸一水素イオンがBPsの骨芽細胞障害増強に関与していると考えられた。この時のリン酸一水素イオン濃度自体には全く細胞障害が認められないことも確認した。免疫組織学的解析で、リン酸一水素イオン濃度の上昇が骨芽細胞のリン酸トランスポーター(Pit-1とPit-2)の発現を顕著に誘導することを証明した。リン酸一水素イオンが蛍光標識したBPの骨芽細胞内への取り込みを顕著に増大させることも判明した。さらにsiRNA法によって、蛍光標識BPが骨芽細胞のPit-1ではなくてPit-2を介して骨芽細胞内へ取り込まれていることも明らかとなった。BPsが骨芽細胞のミトコンドリア膜電位を上昇させ、酸化ストレスによる細胞内活性酸素種(ROS)の発生応答を低下させたことから、BPの骨芽細胞内分布を解析したところ、予想に反してミトコンドリアではなく、リソソームにBPが多く集積することが判明した。BPsの骨芽細胞障害が顕著となるのは24時間以降48時間程度であり、障害にはある程度の時間経過を要しており、また単純なアポトーシスとは異なるBPs特有の細胞死の機序の可能性が考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
BPs特有の骨芽細胞死のメカニズムを明らかにすることが極めて重要であると考えられる。24時間以降48時間までにリソソームに多く集積するBPが、どのようなメカニズムで細胞死を引き起こすかを明らかにする予定である。このメカニズム解析は、BRONJの本質的な治療法に繋がる可能性がある。すでに顎骨壊死を発症した患者に対しても、その病態の進行を阻止できると考えられるからである。一方、BPsの骨芽細胞障害作用がリン酸トランスポーターPit-2を介した細胞内取り込みの増加であることが判明したことから、Pit-2を標的とした選択的抑制物質の検索をさらに継続していくことで、BRONJの明確な予防法に繋がると考えている。また、本来のBPsの標的である破骨細胞のBPs取込みメカニズムとの相違点を明らかにすることで、BPsの骨吸収抑制作用を妨害しないで、骨壊死に繋がる骨芽細胞障害作用だけを選択的に防止する方法を目指すことが可能となると考えられる。BPが細胞内に取込まれてから細胞障害に至るまでには、かなりのタイムラグが認められる。今までの研究結果から、決して単純なアポトーシス誘導ではなく、全く別のメカニズムが関与している可能性があることから、新たな研究展開に発展することも十分に予想される。 また、同時に行っているBPsの血管内皮細胞障害に対する増強因子のスクリーニングも、骨創傷治癒過程での血管新生抑制が骨壊死をより発生し易くしている可能性があることから、より確実な予防法の確立に必須の解析であると考えている。この解析によって、BRONJ発症を起こしやすくしている要因を骨芽細胞以外でも明らかにすることで、より確実な予防法の確立へと繋げられる可能性がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
試薬や器具の購入をなるべくメーカーのキャンペーン期間に行ったことで、より安価に入手できた。そのために当初の予定購入額よりも物品費をかなり節約することができた。新たな発見で、研究当初には想定していなかった試薬・器具も今後必要となる可能性があるために、節約した費用をその購入費用の補充に充てる予定である。
|