研究課題/領域番号 |
16K15327
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
木村 文一 信州大学, 医学部, 講師(特定雇用) (10621849)
|
研究分担者 |
太田 浩良 信州大学, 学術研究院保健学系, 教授 (50273107)
佐藤 之俊 北里大学, 医学部, 教授 (90321637)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | Image analysis / texture analysis / signal intensity / GLCM / Support vector machine / Malignant mesothelioma |
研究実績の概要 |
悪性中皮腫と鑑別を要す反応性中皮細胞やある種の癌では、熟練した細胞検査士や専門医の経験による形態学判断による診断を行っているが、鑑別が困難な症例に遭遇することも少なくない。悪性中皮腫の早期診断は細胞診検査で行われる事が多いが、細胞異型に頼る細胞診では、免疫組織化学的な方法を加味して判断をしているのが現状である。そして進行した悪性中皮腫の治療は困難であるが、MRIなどの医用画像上に現れる前の早期発見による早期治療が最も効果的である。今回の研究では悪性中皮腫細胞および鑑別を要する反応性中皮細胞核のクロマチン分布状態を数値化し、細胞異型を判断する画像解析技術を用いて悪性中皮腫を早期に発見し、患者の利益に寄与することを目的とする。 悪性中皮腫、反応性中皮細胞の細胞診標本に対し、光学顕微鏡に接続されたデジタルカメラによる画像撮影を行った。必要な領域の画像を選択し、細胞核など解析領域を画像編集ソフトウェアphotoshop(CS5, Adobe Systems Inc., San Jose, CA., USA)を使用して指定、テクスチャ解析などの画像解析手法(輝度値、形状特徴および濃度共起行列)により特徴量を算出した。これらの画像解析手法は、効果がありそうな手法を画像解析研究の論文検索により候補として取り上げ採用した。採用した解析手法のプログラムを数値解析ソフトウェアMatlab(ver.R2012a, MathWorks Inc., Natick, MA., USA)上で作製し、動作確認後特徴量を抽出した。得られた特徴量に対して、SPSSにより統計学的解析(相関・有意差検定等)、形態学的観察等に基づき有効特徴量を選択した。そして得られた特徴量を使用して、Matlab上でコードした機械学習機Support vector machineを用いて判別分析を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反応性中皮細胞症例24例、悪性中皮腫症例29例を今回の研究に使用することができ、症例数としては十分である。各症例をデジタルカメラによるカラー撮影した顕微鏡画像に対し、画像のカラー成分をR(赤)、G(緑)およびB(青)チャンネルに分離し、それぞれ核の輝度値、形状特徴および濃度共起行列による特徴量を算出した。 輝度値は平均輝度値および分散値を求め、輝度平均値はGおよびBチャンネルにおいて反応性中皮細胞より悪性中皮腫の方が有意に低値を示した。分散値および標準偏差値は全てのチャンネルにおいて反応性中皮細胞より悪性中皮腫の方が有意に高値を示した。 形状特徴は、核の大きさに関わる特徴である核の最大・最小半径、周囲長、面積と、核の形に関わる特徴である複雑度、円形度、線形度および針状比を求めた。円形度を除くすべての形状特徴で反応性中皮細胞より悪性中皮腫細胞の方が有意に高値を示した。円形度は反応性中皮細胞より悪性中皮腫細胞の方が有意に低値を示した。 濃度共起行列は、GおよびBチャンネルにおいてContrastは反応性中皮細胞より悪性中皮腫細胞の方が有意に低値を示し、Correlation、EnergyおよびHomogeneityは反応性中皮細胞より悪性中皮腫細胞の方が有意に高値を示した。有意差検定はMann-Whitney U-testにて実施した。 形状特徴の特徴量を用いた場合が最も低い判別率を示し、輝度値および形状特徴より濃度共起行列の特徴量を用いた方が高い判別率を示した。すべての特徴量を用いた判別結果では86.8%という結果を示した。 判別率向上の余地はあるものの、まだ使用していない解析手法があるため、判別率を向上させることは可能と思われる。また免疫染色を行わずに8割強の症例で、鑑別が難しい反応性中皮細胞と悪性中皮腫を判別することができたので研究は概ね順調に進行していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
あらかじめ候補として取り上げている解析手法(local binary pattern, Tamura features, Otsu threshold による領域分割後の輝度値、filter setなど)についてMatlabコードを作製し、動作検証後、各種特徴量を算出する。得られた特徴量を使用して判別率向上を目指す。その際、平成28年度に使用したlinear support vector machineだけでなく、non-linear support vector machine, random forestなど他の機械学習-識別器を用いた判別分析を行い、判別率を求める。得られた判別率から、識別器の有用性・適性について検討を行う。 各特徴量の値と細胞の形態学的側面を比較して、特徴量と細胞形態の関係を細胞診検査や病理診断を行っている立場の者に理解できるように解明したい。また同時に、その時点まで明らかになった研究成果について日本臨床細胞学会などで発表、海外紙に論文投稿を行い、学外研究者と議論をかわして研究方針の修正などブラッシュアップを行う。 判明した各種有効特徴量-アルゴリズムより、性能検証のため核特徴量計測用プロトタイプソフトウェアの開発を行う。研究分担者、研究協力者と協力し、プロトタイプソフトウェアの仕様調査を行い開発に役立てる。その後、新たに診断された反応性中皮細胞症例や悪性中皮腫症例を使用してプロトタイプソフトウェアの性能調査を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では研究の進捗状況に打ち合わせを行う必要があったが、研究が順調であったため打ち合わせを行わず、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は平成29年度請求額と合わせて、進捗状況報告・打ち合わせに使用する計画である。
|