ウイルス感染実験では、目的とするウイルスのトロピズムの合致したヒト由来の細胞が実験材料として供給できない場合が多く、そのような場合には、自然宿主ではない培養細胞株を用いるか、あるいは感染可能な培養細胞株がない場合には類縁のウイルス種を用いたモデル系で感染実験を行うことも多い。一方、ウイルス感染を検出する方法としては、従来は培養した後に、細胞の死を観察し、あるいは細胞を壊してウイルス核酸を定量するという、レトロスペクティブな証明法が主流であり、迅速、高感度、精確に検出するのは容易ではない。 そこで、ヒト由来の細胞のゲノム配列を操作し、特異的な改変を加えた細胞株を樹立すれば、自然宿主におけるウイルス感染をリアルタイムに観測し、増幅したウイルスを迅速かつ高感度に検出できる技術を創出できる可能性が考えられる。 そこで本研究は、ヒト由来細胞にそのようなゲノム改変を加えた細胞の樹立を目的として研究を行った。様々なヒト由来の細胞株に対してCRISPR/Cas9を用いた改変を加え、シングルクローンを樹立して細胞株として樹立する試みを行った。 その結果、一部の細胞で目的とする遺伝子を改変することに成功し、ウイルス感染を施行する実験系が樹立できた。さらにこれらのシングルクローンのフェノタイプをより安定化する改良を加え、これを用いて種々のウイルス種での感染実験を行うためのプラットフォーム技術を構築しつつある。本研究の成果は、ヒト細胞におけるウイルス感染の分子機構の解明につながると期待できる。
|