痛みは医療の根源であり、侵害受容器は痛みの入口となる。もし侵害受容器活動を介した痛覚受容のプロセスをミリ秒単位の高い時間分解能で自在に制御できれば、疼痛を抱える患者や痛みによる医療経済的負担の軽減に役立つと期待できる。また、痛覚に関わる侵害受容器の新しい分類や特徴づけ、その活性化機構・因子に関わる研究は、疼痛治療や予防に役立つと考えられる。本年度は骨格筋の病態時の痛み受容に関わると考えられているが、未だにその存在が実証されていない非活動性侵害受容器について解析を進めた。その結果、骨格筋における非活動性侵害受容器の存在とその受容器線維の軸索伝導特性を明らかにすることができた。また、非活動性侵害受容器の一部は実験的な炎症状態を模擬することで活性化することがわかった。現在、皮膚の非活動性侵害受容器との差異についても解析中である。さらに、骨格筋の痛覚過敏におけるTRPA1チャネルの関与を確かめるため、遅発性筋痛(いわゆる運動後の筋肉痛)の動物モデルを用いて解析を進めた。その結果、行動レベルでTRPA1の関与が明らかとなった。現在、その侵害受容器レベルでの関与を検証中である。また、アデノ随伴ウイルスベクターを用いて光活性化分子であるチャネルロドプシン2やアーキロドプシンTの導入を試みたラット・マウスの末梢侵害受容器や骨格筋切片標本の画像からそれらの発現を確認したが、実用的なレベルには至らなかった。また、一部では激しい組織損傷を生じており、安全面での課題もクリアできていない。今後、更なる改良・検討が必要であると考える。
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