研究課題/領域番号 |
16K15348
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
明上山 温 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 准教授 (90347279)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 制動X線 / 高エネルギー電子線 / モンテカルロ法 / 電磁石 / 画像再構成 / GPGPU |
研究実績の概要 |
本研究は、直線加速装置のX線モードと電子線モードの両方を用いた高エネルギー放射線の新しい画像撮像法を開発することを目的としている。 本年度は電子線モードの時の画質向上を主な目的とした。電子線モードでの画像取得では,加速器ヘッドのシャドートレイにターゲットとして金属板をヘッドの外に設置する方法とElectronic Portal Imaging Device(EPID)側に銅板・アルミ板によるエネルギー補償フィルタを設置する方法の2通りで行った。直線加速装置の電子線モードを利用してEPIDの前面に銅板およびアルミ板を設置することにより得られた画像と、その時のエネルギースペクトル分布を得るために簡易的なモンテカルロシミュレーションを行った。銅板とアルミ板の厚さの調整によりX線で得た画像とは異なるエネルギースペクトルの画像が得られることから、元のX線モードの画像と電子線モードの画像との演算により高コントラスト画像の生成を行った。この成果は国際会議で発表された。また、シャドートレイに電磁石を設置し、電磁石からの強い磁場で電子を曲げることによって制動X線の発生を照射野内で部分的に強化する実験を行った。6 MeV,9 MeVで画像に変化が現れなかった。これは磁界により発生したX線のエネルギーが低エネルギーのためEPID素子に到達しなかったためと考えられた。12 MeV, 15 MeVでは画像に変化が現れた。これは磁界により発生したX線のエネルギーが6 MeV,9 MeVに比べて高エネルギーとなったためにEPID素子に多く到達したためと考えられた。これらの成果は国内学会で発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は高エネルギー電子線の磁界による挙動の精密なシミュレーションの開発および磁界発生装置の製作と加速器ヘッドへの設置を行った。 研究開始以前に購入した汎用シミュレーション用のコンピュータを用い、時間をかけることで高エネルギー電子線と電磁石との精密なシミュレーションが可能となったため、より高速な汎用コンピューティング向けに進化するグラフィックカードが購入できる来年度に購入予定であった並列計算用コンピュータの購入をずらした。このシミュレーションにより、100keV程度のシンクロトロン放射を発生させるために必要となる電磁石の強度と重量が加速器ヘッドに設置できるものではないことが判明したため、逆に電磁石は電子線を任意の位置に収束させるために用いることにし、電子線を曲げたとき放射される電磁波が非電離放射線ほどのエネルギーに調整することで、その下に設置する銅のターゲットで十分遮蔽できることを確認された。収束した電子をターゲットに当て、制動X線を発生させて画像生成に用いる構造に変更したことにより構造が大幅に縮小され重量も1/50とすることが可能となった。 次に、シミュレーションで想定した市販の電磁石を用いて実際に加速器から出力される電子線の収束について実験を行った。4 MeVから15 MeVまでエネルギーを変化させたところ、どのエネルギーでも照射野内の任意の位置に電子を収束させることが可能であることが確認された。 当初予想した電磁石の使用方法とは違う目的での研究方針になったが、今年度はおおむね予定通りの進捗となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究進捗により、新しい画像生成法のための高エネルギー電子線の利用方法が大幅に変更されたため、急ぎ多数の条件による新しいシミュレーションを実行する必要がある。逆に研究初期段階で高エネルギーX線・電子線の画質向上の見通しが立ったので、直線加速装置を用いた多くの実験を行うことで最適な撮像条件を見つけ出すことが1つの作業になった。ただし、長時間電磁石に電流を流したときの電磁石本体の発熱量が無視できなく、磁場強度をリアルタイムに変化させるとさらに発熱量は増加することが予想される。本年度と同様、様々なサイズの電磁石に対応する冷却機構が必要となっており、本年度導入した3Dプリンターでこれに対応可能であるため、次年度以降では最適な冷却機構を考案する必要がある。 また、患者被曝線量をできる限り抑えるために、散乱線モデルを用いた画像補正についても考案する。このとき、高速な処理のためにGPUを用いた画像生成法を新しく考案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究採択当初に購入予定であった電磁石、電磁石コントローラが想定より安価であったが、その発熱量が高く長時間の使用に危険があったため、冷却用のカバーを電磁石の大きさごとに作成するために3Dプリンターを購入した。冷却カバーに必要なサイズを造形できるプリンタが想定より高価であったため、当初予定の並列計算コンピュータが購入できなくなり、それを次年度の研究費と組み合わせて購入するため。
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次年度使用額の使用計画 |
制動放射線並列計算コンピュータを次年度使用額と次年度助成金とを組み合わせて360,000円程度の高性能コンピュータを購入する。
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