『癌の遺伝子異常に対する分子標的薬と、癌の代謝異常に対する代謝経路阻害剤の併用戦略』として、まずHDAC阻害剤vorinostatとグルタチオン(GSH)代謝経路阻害剤サラゾピリン(SASP)の併用効果について検討した。家族性乳癌に多くみられるトリプルネガティブ型乳癌のMDA-MB-231細胞に対し、vorinostatとSASPの併用処理により、アポトーシス誘導とコロニー形成抑制を認め、それらの現象はGSHの前駆物質NACの投与により相殺された。また2剤併用により細胞内GSH量の減少及びROSの蓄積を認めたことから、これらの併用効果はSASPのオンターゲット効果と考えられた。 次に同じくMDA-MB-231細胞を用いて、MEK阻害剤CH5126766とメバロン酸経路阻害剤スタチン(fluvastatin及びsimvastatin)の併用効果について検証した。CH5126766とスタチンの併用処理により、アポトーシス誘導、細胞増殖抑制及びコロニー形成抑制を認め、このときスタチンがCH5126766によるAktのリン酸化亢進を抑制することを見出した。次にこれら2剤併用時にメバロン酸(MVA)及びその最終代謝産物のコレステロール、ファルネシル二リン酸、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を各々添加したところ、MVA及びGGPPの添加により、スタチンによるAktの脱リン酸化及び薬剤併用によるアポトーシス誘導が相殺されたことから、これらの併用効果において、スタチンによるゲラニルゲラニル化阻害が重要であると考えられた。 以上、いずれの併用効果も、MDA-MB-231細胞以外の複数の癌細胞株においても認めたことから、本研究課題の根幹である『癌の遺伝子異常に対する分子標的薬と、癌の代謝異常に対する代謝経路阻害剤の併用戦略』は、乳癌以外の幅広い癌腫に対しても応用できる可能性が期待される。
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