Human papilloma virus (HPV)による発がん機構として、HPVのE7遺伝子がコードする E7タンパク質が、代表的ながん抑制遺伝子RB遺伝子の産物であるRB タンパク質に結合し、その分解を促進することで、RBタンパク質の働きを阻害することが明らかとなっている。そこで、HPV E7の発現を抑制することによる発がん予防の可能性に着目した。 HPV16陽性であるヒト子宮頸がんCaski細胞及びSiHa細胞において、HPV16 E7に対するsiRNAを導入したところ、両細胞ともE7の発現は抑制された。そこで、E7発現抑制に伴う、RBタンパク質への影響を検討したところ、意外にもRBタンパク質の増加ではなく、不活性型であるリン酸化RBタンパク質の減少が認められた。したがって、E7の発現抑制は、当初の想定とは異なり、RBタンパク質の「量的」な再活性化ではなく、「質的」な再活性化を起こすことが示された。 そこで、次にE7発現抑制に伴う、細胞増殖への影響を検討したところ、両細胞ともE7発現抑制及び不活性型であるリン酸化RBタンパク質の減少が生じているにもかかわらず、細胞増殖に影響は認められなかった。 このことは、HPV16陽性であるヒト子宮頸がんCaski細胞及びSiHa細胞においては、E7発現抑制によるRBタンパク質の質的再活性化だけでは、HPVによる細胞増殖が解除されないことを示しており、E7遺伝子以外のHPVのコードする遺伝子、例えばE6遺伝子も同時に抑制しなければ、細胞増殖を阻害できない可能性が考えられる。今後、E7とE6発現を同時に抑制する等の戦略を考案して、あらためてHPV16陽性であるヒト子宮頸がん予防法の開発に努めたい。
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