研究課題/領域番号 |
16K15382
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
高田 礼子 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (30321897)
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研究分担者 |
人見 敏明 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 准教授 (90405275)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒ素 / 和食 / アルセノシュガー / 脂質性ヒ素化合物 / 毒性 |
研究実績の概要 |
最近、海藻類や魚介類に高濃度含有しているヒ素の化学形態は、これまでに明らかにされているアルセノベタインに加えジメチルヒ素化合物であるアルセノシュガー(As-sug)や脂質性ヒ素化合物(As-lipd)であることが解明され、海産物は安全な食材であるか否かの評価が求められている。本研究では、As-sugやAs-lipdの一般毒性や発がん性の評価に際して、まず基礎となる無機ヒ素やDMAに対する細胞毒性の情報について、適切な細胞種の選択、そして、市販乾燥海藻類から作製したAs-sugについても検討を試みた。 市販の乾燥海苔からAs-sug試験液を作製し、As-sugの濃度はHPLC-ICP-MS法にて分析した。試験に用いた細胞は、ヒト膀胱がん細胞株(T24細胞)とヒト子宮頸がん細胞株(HeLa細胞)である。陽性対照のヒ素化合物として無機ヒ素とジメチルアルシン酸(DMA)を使用した。一般細胞毒性はCCK-8法、アポトーシスは蛍光顕微鏡での観察、フローサイトメトリーによるsub-G1解析、ウエスタンブロット法によるCaspase-3、Cleaved Caspase-3の検出を行った。 無機ヒ素とDMAを用いT24細胞とHeLa細胞にて感受性を検討した結果、ヒ素化合物添加48時間後、Cleaved Caspase-3を指標とした評価ではT24細胞がHeLa細胞に比較してやや鋭敏であった。さらに、sub-G1、アポトーシス小体の結果からもT24細胞の有効性が示唆された。これらの手法を用いて、海苔-As-sugについて検討した結果、無機ヒ素に比較して明らかに毒性は低かったが、DMAと構造骨格が類似することから、As-sugは無毒のヒ素ではなく、毒性に関する十分な検証が必要なヒ素化合物であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海藻中As-sugに関する細胞毒性試験法は海外の研究機関においても検討課題となっている。本年度研究において、As-sugを検証する基軸となるDMA及び無機ヒ素の細胞毒性評価に対する適切な細胞種を選択することができ、これにより広範な検討が可能となった。さらに、市販乾燥海苔から抽出作製したAs-sugを用いた試験においても期待した結果が得られ、これらの研究成果から、研究はおおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象の海藻中As-sugをさらに市販の乾燥昆布から作製し、海苔と昆布中As-sugについて、詳細な毒性試験と評価を実施する。 高濃度のAs-sugを含有している海産物の安全な食べ方を検討するために、28年度研究にて確立したT24細胞及びHeLa細胞の実験系を用いて、As-sugによる酸化的DNA損傷、アポトーシスなどに対して毒性軽減に寄与する可能性がある抗酸化物質としてアスタキサンチン、フコキサンチン、グルタチオン等をそれぞれ作用させ毒性軽減の効果を検証する。これらの抗酸化物質による作用を解明し、機能性食品の利用や食物の食べ合わせによるヒ素化合物の毒性の軽減や排泄の促進などに関する研究成果の獲得を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
市販乾燥海苔から抽出作製したAs-sug、そして化学試薬である無機ヒ素やDMA等を用いた細胞毒性試験のうち、アポトーシス関係の検査に使用する高感度な蛍光顕微鏡の修理等により予定の実験が延期され、その結果として研究費の使用が次年度に繰り越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度での研究において仮説として想定していた研究成果の獲得に目算が立っており、29年度は28年度から実施している海藻中のAs-sugの毒性評価を高度化し、さらに毒性軽減効果に関する検証を行い、当初の目標の達成を目指す。
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