研究課題/領域番号 |
16K15392
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
廣瀬 昌博 島根大学, 医学部, 教授 (30359806)
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研究分担者 |
内田 宏美 島根大学, 医学部, 教授 (30243083)
岡本 和也 京都大学, 情報学研究科, 研究員 (60565018)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インシデント・アクシデント / 自動検知システム / インシデント・キーワード / 機械学習法 / サポートベクターマシン / 形態素解析 / TF-IDF法 |
研究実績の概要 |
本研究は、病院情報システム上の診療録や看護記録等から、報告漏れを防止するため、インシデントを自動的に検出する自動検知システムの開発が目的である。28年度は、TF-IDF法によるインシデント候補を抽出する手法について検討した。本法は、「転倒」カテゴリのように転倒の発生がインシデントであるカテゴリとは異なり、「注射薬」といった通常の注射に関する行為とインシデントが直接関連付け場合できない場合は、インシデントの抽出が困難であると予測された。そこで、29年度は、「注射薬」カテゴリのインシデントについて、機械学習法のサポートベクターマシンを用いたインシデント抽出を試みた。一定期間の経過記録を用い、教師データと識別器を作成し、正規化や各種のカーネルに関する検討を行ったところ、実施した16通りの結果のうち、最良であると考えられる「線形カーネル」・「正規化」あり」・「単語パターンなし」という設定において再現率が40.1%、精度が88.2%という結果を得た。 さらに、インシデント候補提示システムの開発を行った。1週間分の経過記録について、識別器から抽出したインシデント候補を提示し、医療安全管理部門のスタッフがインシデントの可否を判断した。正規化した場合、インシデント候補91件中23件がインシデント、うち13件が未報告、10件が報告済みのインシデントであることが分かった。このことから、本研究の目的である報告が漏れているインシデントの検出が可能であることが示された。 一方、医師は看護師に比較し、インシデント報告が十分でないことが以前から指摘されている。そこで、転倒事例について、インシデント発生日から報告日までの間に診療記録や看護記録にインシデントが記述されているのか、職種間で共有されているのかを調査したところ、受傷レベルの高い事例のほうが医師の記述の多いことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最大の目的であるインシデント自動検知システムの開発は、29年度の京大グループによる研究によって一応の目途がついた。それは、前述したように機械学習法のサポートベクターマシンを用いる方法で、実証実験から未報告のインシデント抽出が可能であることが示されたことによる。
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今後の研究の推進方策 |
京都大学グループは28年度とは異なる方法、つまり機械学習法のサポートベクターマシンを用いたインシデント抽出を試みた。そのうえで、識別器から抽出したインシデント候補から、未報告のインシデントの抽出が可能であることを明らかにし、本研究の当初の目的である、インシデント自動検知システムの開発に道筋をつけることができた。しかし、実用化するにあたって、1日24時間システムをフル稼働させるのではなく、例えば、6時間、12時間ごとにシステムを稼働させるのがより効率的と考える。そのような時間的可能性も含め、自動検知システムプログラム作成の可能性を検討する。 一方、研究グループでは当初計画していた、抽出されたインシデント・キーワードを診療記録や看護記録で確認することについて、抽出したキーワードはもともと診療記録や看護記録に記述されたものであり、確認することに意味はないとの議論があった。また、医師によるインシデントレポート提出の遅れが以前より指摘されていること、インシデント発生は職種間のコミュニケーションの不具合(communication break down)によることなどから、研究チームは、提出されたインシデントレポートから、インシデント発生から報告までの期間に医師や看護師、その他の医療従事者による記録において、インシデント発生について、その認識の有無や医療従事者間でのインシデントに関する情報の共有の有無を人的に確認することとした。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述したように、研究グループでは、インシデント・キーワードの人的確認については意味がないとの議論から、また、インシデント発生はcommunication break downがその一因であることから、インシデント発生の認識や職種間でのインシデント発生に関する情報共有に関する記述の確認が重要であることが検討された。また、島根大学において昨年度病院情報システムが更新されたことから、報告されたインシデントについて、その発生から報告までの期間における、当該患者の診療記録や看護記録等の抽出が29年12月にまで遅れることとなった。そのようなことから、上記の人的確認ができず、その人件費が主として残ったものである。また、成果報告予定していたができなかったことから、旅費等が残ったものである。いずれも、研究期間最終の30年度に使用する予定である。
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