研究課題/領域番号 |
16K15398
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研究機関 | 滋慶医療科学大学院大学 |
研究代表者 |
大石 雅子 滋慶医療科学大学院大学, 医療管理学研究科, 教授 (30452395)
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研究分担者 |
岡 耕平 滋慶医療科学大学院大学, 医療管理学研究科, 准教授 (90466863)
上田 幹子 大阪大学, 歯学部附属病院, 技術職員 (90587966)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 病院薬剤部 / 調剤行動記録 / コミュニケーション密度 / 調剤過誤 / レジリエンス |
研究実績の概要 |
医療安全研究は従来、事故事例の原因分析と対策を中心に行われてきた。近年になって事故は複雑な日常業務の中でいつでも起こりうるという解釈から、問題なく遂行される日常業務を分析・評価し、先見的な対策を立て、組織のレジリエンスを強化する必要があるといわれているが、その具体的方法はまだ確立されていない。病院薬剤部門においても、調剤行為の過誤は重大事故につながる危険性があるが、その安全研究は未だ従来の原因分析型に留まっている。そこで病院薬剤師と認知心理学の専門家が協働して特性の異なる複数の施設で調剤業務の観察研究をおこない、従業者の複雑業務や繁忙への対応、潜在的リスクの検出などのメカニズムを比較分析し、新しい観点からレジリエンスの本質とその評価指標を明らかにすることとした。方法として調剤行動を機器によって画像記録し、コミュニケーションの密度や業務のスムーズさを解析ソフトにより量的に評価することでレジリエンスの評価指標を得ることができると考えた。初年度である平成28年度から29年度前半は、小規模医療機関にて、機器や解析ソフトの設定検討を含めた予備的観察研究を行うこととした。まず最初に機器および解析ソフトの選定をおこない、購入後に当該機関で設置場所や期間について実地検討を行った。これと並行して、当該機関において研究倫理審査を受けて承認を得た。この後、薬剤部薬剤師である調査参加者への説明会を行い、インフォームドコンセントを得た。現在は設置検討をほぼ終了し、予備検討に用いる記録データを取得して解析を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は調査機関である大阪大学歯学部付属病院薬剤部にて予備実験の実施を計画した。まず記録機器について選定を行い、調剤行動が十分に記録できる精度が見込める機器を購入して、当該調査機関に設置した。記録のための機器と分析ソフトウエアについては条件設定が重要であり習熟が必要であることから、調剤室内の記録位置や処理ソフトについての初期試験を行い、短期間の記録テストを行った。短期記録について解析処理を検討したところ、カメラの設置角度に問題があり精度が十分でないことが判明し、薬剤部内のカメラ設置位置を修正した。28年度終盤に調剤業務の行動記録を開始し、1か月連続でデータ収集を行ったが、記録機器の使用習熟と設定が不十分であったことから、予定した期間の記録が十分に得られていないことが判明し、現在のところ部分的な記録により解析を行っている段階となっている。
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今後の研究の推進方策 |
機器の設定がほぼ終了したので、予備試験結果の解析を進めるとともに、3か月程度の長期間のデータを収集し、実画像の分析によるコミュニケーション密度の質的・量的な分析と、調剤を行う薬剤師に対する聞き取りをおこない、調剤室の作業密度の量的な解析を併用して、調剤業務を問題なく進行させるレジリエントな対応を数値化する方策について今後の解析方法を確立する。今後は規模の異なる大阪大学医学部附属病院薬剤部にて調剤行動記録の収集に取り組み、小規模病院で得られた解析手法が普遍化可能かを検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予備実験の条件設定に時間を要しており、公表すべき結果が出ていないことから、旅費・人件費等の支出に充てられていない。
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次年度使用額の使用計画 |
現在小規模施設で機器の設定やデータの取得方法について検討をおこなっているので、収集し解析した内容について関連学会等で中間的な結果の公表を行い、今年度(平成29年度)中にはその妥当性を検証する計画である。したがって、今年度はデータ処理の人件費や旅費等で支出が予測される。さらにこの後、順次規模の異なる他施設での記録と解析に移行し、小規模施設との比較検討を計画としている。記録機器は移設可能なので、初年度購入した機器を用い、設定条件を調整して大規模医療機関薬剤部の調剤業務状況収集を行う予定としている。
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