研究課題
子どもの虐待には、身体的な障害の他に、精神障害の発生や虐待の世代間連鎖等の問題がある。早期の有害なライフストレス(ELSs)である虐待が子どもの脳発達に悪影響を及ぼし、精神障害の発生に関わることが脳の形態学的な検討から明らかとなってきた。また、動物実験ではELSsがどのような変化を脳にもたらすかについて、分子レベルでの解析が進んでいる。さらに、海外ではヒトにおける研究もあり、末梢血、脳(海馬)におけるグルココルチコイド受容体遺伝子(NR3C1)、トロポミオシン受容体キナーゼ遺伝子(TrkB)等のメチル化解析や網羅的なメチル化解析も報告され、ELSsによってDNAメチル化が惹起されることが示されてきた。しかし、ヒトにおける研究では、研究材料が幼少期に虐待を受けた経験のある自殺者に由来する脳であったり、海馬に限定された研究であったり、DNAの由来が神経細胞ではなく、末梢血であるなどの問題があり、ELSsだけで脳のDNAメチル化が亢進するのか、ELSsの影響を受けやすい解剖学的な部位とゲノム領域はどこなのか、等の問題があり、ELSsと脳のDNAメチル化の研究は端緒についたばかりである。我々は虐待例と突然死例各4例の、海馬の神経細胞、小脳顆粒細胞のグルココルチコイド受容体遺伝子(NR3C1)遺伝子プロモーターのDNAメチル化を調べた。海馬では頭部外傷を伴う虐待例2例ではDNAメチル化が亢進したアリルが検出され、頭部外傷を伴わない虐待例2例ではDNAメチル化の亢進したアリルはなく、小脳では虐待例と突然死例ともにDNAメチル化のあるアリルは検出されなかった。上述の結果は、頭部外傷によりDNAメチル化が亢進すること、脳損傷を伴わないライフストレスではDNAメチル化亢進に至らない場合があることを示している。
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Leg Med
巻: 30 ページ: 46-51
doi.org/10.1016/j.legalmed.2017.11.005
巻: 32 ページ: 7-89
doi.org/10.1016/j.legalmed.2018.03.006