研究課題/領域番号 |
16K15408
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
門脇 真 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 教授 (20305709)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 経時的全遺伝子発現解析 / 大建中湯 / 慢性大腸炎関連発癌 / 寛解期 / 疾病前状態の予測 / 数理解析 |
研究実績の概要 |
厚生労働省指定「特定疾患」であり、急性期・再燃期と寛解期を繰り返す炎症性腸疾患 (IBD) の最も重篤な合併症は、慢性炎症を背景とした大腸発癌 (CAC) である。しかしIBDの急性期・再燃期に寛解導入療法として用いられている強力な免疫抑制剤を長期使用することは、逆に発癌リスクへの懸念や感染症への懸念が大きい。寛解維持療法に用いる有用な治療薬の創出が強く求められているが、CACに対する薬物治療の研究はほとんど報告されていない。 そこでまず、急性大腸炎モデルマウスの結腸でDNAマイクロアレイを用いた得られた経時的網羅的全遺伝子発現解析データを数理解析して、急性期・再燃期の発症予測を行い、発症前に大腸炎抑制効果のある漢方薬を用いることにより、寛解期の延伸・維持を行う戦略を検証することとした。すなわち、長期使用が可能な漢方薬の効能リポジショニングによるIBDの有用な治療戦略を確立すること目的とした。 これまでに我々は、マウスCACモデルを確立し、CACの発生には、CD4 T細胞から分泌されたIL-6が大腸粘膜および粘膜上皮細胞のSTAT3を活性化することが非常に重要であり、IL-6の放出を阻害することによりCACの発生を抑制することを報告している。 (Am.J.Physiol.2014)。また、急性大腸炎モデルを用いた創薬シーズの探索研究により、現在臨床で腸管運動不全等に用いられている漢方薬・大建中湯が、急性大腸炎モデルおよびCACモデルにおいて抑制効果を示すことを見出している。 そこで、まず急性大腸炎モデルで経時的網羅的全遺伝子発現解析により、238個の遺伝子が発症前に大きく変動することを見出した。従って、漢方薬等を用いてこの遺伝子群の変動を抑制することにより、寛解期の延伸・維持を行うことが可能となることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CAC モデルでの検討は長期間を有するため、また急性期・再燃の疾病前の状態を予測する方法を詳細に検討ため、まず3%デキストラン硫酸ナトリウム (DSS) を7日間継続的に自由飲水させたDSS誘起急性大腸炎モデルマウスで検討を行った。DSS投与後、0、1、3、5、7日目に結腸を摘出し経時的網羅的全遺伝子発現解析を行い、この網羅的全遺伝子発現データを数理学的に解析した。この数理解析には、合原らが構築した「複雑系数理モデル理論」を応用した。この理論の「疾病を健康状態からの分岐現象」と捉えるアイディアは、非線形動力学理論と複雑ネットワーク理論によって、少ないサンプル数から得られる遺伝子やタンパク質の大規模発現データから疾病前状態を検出し、疾病の早期診断や病態悪化の予兆検出に適用できる可能性がある。従って、疾病前状態を予測する数理モデル理論である動的ネットワークバイオマーカー(Dynamical Network Biomarkers, DNB)理論を適応し、遺伝子が最も大きく変動した3日目を疾病前状態と判断したが、実際に本急性大腸炎モデルでは5日目より症状が観察された。疾病前状態の3日目では238個の遺伝子群が大きく変動することを見出し、本遺伝子群の解析を進めている。また、大建中湯は本急性大腸炎を抑制した。
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今後の研究の推進方策 |
DSS誘起急性大腸炎モデルでの数理解析:急性大腸炎モデルでのDNB理論により抽出された遺伝子群に対する大建中湯の作用を検討する。 CACモデルでの数理解析:CAC マウスおよび大建中湯を投与したCAC マウスからから経日的(AOM 投与5、10、26、52、70 日後)に腸管を採取し、網羅的全遺伝子発現解析を行い、DNB理論により遺伝子を抽出する。また、その遺伝子群に対する大建中湯の作用を検討する。 CACモデルでの腸内細菌叢の解析:CAC の病態においてもdysbiosis が認められ、CAC の病態形成には腸内細菌叢が重要な役割を果たしていると考えられている。そこでCAC モデルにおけるdysbiosis を解析し、dysbiosis に対する大建中湯の有効性を明らかにする。 i) CAC マウスから経日的に糞便を採取し、腸内細菌のゲノムDNA を抽出後、次世代シーケンサー(MiSeq; illumina、富山大学現有設備)を用いてメタゲノム解析を行い、腸内細菌叢の変化を解析する。 ii) CAC マウスに大建中湯を投与して腸内細菌叢を解析することにより、CAC の発症および病態形成におけるdysbiosis に対する大建中湯の有効性を検討する。
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