研究課題
動脈硬化症進展におけるスフィンゴ脂質代謝の詳細な病態メカニズムは、未だ完全に解明されていない。本研究課題では高コレステロール食(HCD)負荷による動脈硬化発症モデルを用いて、スフィンゴ脂質代謝の鍵酵素が動脈硬化症の進展に与える影響を解明する。本年度は当該鍵酵素ノックアウトマウスとその同腹野生型マウスの動脈硬化発症モデルを作成し、比較検討を行った。HCDは12週間の負荷後に血漿コレステロール・中性脂肪ならびにリポ蛋白質・脂質分画解析(Sky light biotech社へ委託)を行い、大動脈全体を切離した展開標本ならびに大動脈洞の薄切標本を作製し、動脈硬化病変の広がりと局所動脈硬化病変における脂質含有量をオイルレッドO染色にて評価した。また、切離した大動脈内の動脈硬化病変に浸潤している白血球系細胞、ならびに酸化LDL取り込み・コレステロールくみ出しに関連する受容体CD36・トランスポーター蛋白ABCG1/ABCA1の大動脈全体における発現量を、免疫組織染色法とウェスタンブロット法により定量評価した。その結果、当該鍵酵素ノックアウトマウスは、1. 血漿コレステロール・中性脂肪・分画解析は野生型と同等であった2. 大動脈展開標本における動脈硬化病変が有意に増大しており、大動脈洞の動脈硬化病変には白血球細胞が多く浸潤し、病変全体のコレステロール含有量が多く認められた3. CD36発現量は少ないが、ABCG1/ABCA1発現量に差を認めなかった事が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
スフィンゴ脂質代謝における当該鍵酵素が、病変部位に蓄積する細胞内コレステロール代謝そのものに影響し、動脈硬化症進展を抑制する可能性が示唆された。以上の結果から、来年度以降の方針を決定づける事が出来たため。
1.動脈硬化症形成を担う細胞集団の同定当該鍵酵素は、発現量の差異はあるが全身に発現している。現在用いている全身型ノックアウトマウスでの検討では、どの細胞集団が直接病態形成に関与しているか明らかにすることは困難である。そこで、当該遺伝子改変マウスと同腹野生型マウスとの間で骨髄移植実験を行い、まず骨髄系細胞に発現する当該遺伝子の関与を明らかにしたい。またノックアウトマウスの当該遺伝子領域にはβガラクトシダーゼ遺伝子が導入されており、各種細胞に特異的な検出抗体を用いた免疫組織染色法を組み合わせる事によって、動脈硬化病変における関連細胞集団が同定できると考えている。2. 当該鍵酵素欠損が病変内コレステロール含有量増大を来すメカニズムの解析血漿中の脂質プロファイルならびに酸化LDL取り込み・コレステロールくみ出し関連蛋白質の結果ではノックアウトマウスの動脈硬化病変におけるコレステロール含有量の増大は説明出来ず、当該鍵酵素が細胞「内」コレステロール代謝になんらかの影響を及ぼしている可能性が示唆された。上記1.において細胞集団が同定されれば、細胞への酸化LDL負荷やマウスへのHCD負荷が及ぼす表現系の差異を主にコレステロール代謝の視点から比較検討する予定である。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
PLoS One
巻: 12(1) ページ: -
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0170391