研究課題
マウス慢性拘束モデルの作製と病理解析を行った。マウスに1日2時間の拘束ストレスを反復したところ、1週間では変化は起こらず、2週間で内臓脂肪の萎縮と炎症を認めた(Diabetes 2012)。これより2週間の慢性ストレスの影響を、主要臓器について網羅的に病理学的所見、炎症を反映する単球の表面マーカー、炎症性サイトカイン、酸化ストレスマーカー、凝固因子の発現、fibrin血栓の分布について免疫組織染色、real time RT-PCR法、Western blotting法を用いて解析した。我々は同モデルにおいて脂肪組織の慢性炎症と活性酸素の増加に着目し、これに関わるいくつかの分子の発現を検討した。この中の1つDipeptidyl Peptidase-4(DPP-4)に着目した。DPP-4は、炎症性サイトカインで誘導され、インスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌抑制して、糖代謝を改善する腸管由来ペプチド・インクレチンを分解する。情動ストレスは脂肪組織にDPP-4を誘導し、結果GLP-1は減少して糖代謝は増悪した。糖尿病治療薬DPP-4阻害薬は、DPP-4の活性を抑制した結果糖代謝を改善させた。また、DPP-4阻害薬には抗酸化作用、抗炎症作用があり、ストレスによる脂肪組織の慢性炎症、炎症性サイトカイン産生、酸化ストレス産生は減少した。その結果、PAI-1、組織因子の発現も低下して血栓傾向を改善した。DPP-4阻害薬は中枢神経において神経ペプチドYの分解を抑制して、ストレス耐性を増加させる作用があるともされる。DPP-4阻害薬はストレス関連疾患とされる糖尿病、血栓症の進行抑制、予防に有効であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
研究実績に記した結果をPsychoneuroendocrinology誌に報告した。現在、マウス慢性拘束モデルにおいて、さらに別の分子の挙動と薬理的阻害の効果を検討している。腸管細菌叢におけるストレスの作用についても検討を進めている。
マウス慢性拘束モデル.における心筋、大動脈、脂肪、肝臓、骨格筋、血液のサンプルを採取し、酸化ストレスマーカー、炎症性サイトカイン、炎症細胞マーカーの発現を検討する。特にストレス、炎症の影響のあった臓器についてトランスクリプトーム・メタボローム解析を行う。これまで検討したインスリン抵抗性のみならず、特に炎症をきたした心筋、肝臓、脂肪組織の脂肪酸代謝の変化、肝臓においてアミノ酸代謝の変化を中心に検討する予定である。
事情があって学会出張ができなかったため。
次年度の物品費に使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
eLife.
巻: 6 ページ: e24419
10.7554/eLife.24419.
Psychoneuroendocrinology.
巻: 73 ページ: 186-195
10.1016/j.psyneuen.2016.08.004.