研究課題/領域番号 |
16K15413
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
須藤 信行 九州大学, 医学研究院, 教授 (60304812)
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研究分担者 |
古賀 泰裕 東海大学, 医学部, 教授 (60170221)
吉原 一文 九州大学, 大学病院, 講師 (20444854)
山下 真 九州大学, 大学病院, 医員 (40770805)
波夛 伴和 九州大学, 大学病院, 助教 (10535983)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / ストレス / バクテリアル・トランスロケーション |
研究実績の概要 |
我々のグループは、腸管内容物に適用可能なHPLC測定系を確立し、腸管管腔内にドーパミン、ノルエピネフリンなどのカテコラミン(CA)が存在することを世界で初めて証明した(Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 303(11):G1288-95, 2012)。この事実は、腸管においてCAを介した宿主と腸内細菌との情報伝達(inter-kingdom signaling: IKS)が恒常的に行われていることを示している。本研究は、これまでの知見を発展させ、神経性やせ症の病態形成におけるIKSの意義について検討することをめざしている。 平成28年度は、Harvard大学Garrettラボとの共同研究によって、このCAを介したIKSが炎症性腸疾患の病態形成においてどのようは役割を演じているかについて動物モデルを用いて検討した。具体的には炎症性腸疾患に類似した病変を自然発症する2種類のモデルマウス(T-bet-/-Rag2-/-, IL-10KO)とムコ多糖の一種DSSで腸粘膜上皮障害を引き起こすDSS誘発性炎症性腸疾患モデルを用いてQseC-CAシグナルの役割を調べた。その結果、QseCをブロックする化合物であるLED209は、T-bet-/-Rag2-/-マウスおよびDSS誘発性炎症性腸疾患モデルにおいて腸炎を改善した。 以上の結果は、炎症性腸疾患の治療において腸内細菌をターゲットにした新たなアプローチを提案するものである。特にLED209は治療薬としての応用も期待される。これらの成果を論文として発表した(Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Jan 3;114(1):142-147)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果の一端をProc Natl Acad Sci USA誌に発表した。研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、高ストレス状態・消耗状態を呈する神経性やせ症患者(anorexia nervosa: AN)の血中において腸内細菌の検出を試みる。 AN患者では、感染巣が不明の菌血症、敗血症を来たし、生命の危機に瀕することがある。AN患者では、長期のストレス、飢餓状態により、BTが恒常的に起きていることが推測されているが(J Eat Disord 2012;45:453-5)、その詳細は不明である。そこでAN患者の血中腸内細菌の有無および体重増加にともなう菌血症の変化について検討する。被験者は以下の条件を満たす対象15歳以上から50歳までの女性:構造化面接においてアメリカ精神医学会精神疾患診断統計マニュアル第5版(DSM-5)のAN診断基準を満たし、文書によって同意の得られた外来・入院患者20名(AN患者群)およびAN群と年齢を一致させた健常女性20名(コントロール群)。なお問診、身体診察によって身体疾患や精神疾患の合併が明らかになった場合は、対象から除外する。腸内細菌への影響を考慮し、エントリー前3ヶ月間に抗生物質の投与を受けた場合、また患者群において中心静脈栄養による治療を行った症例は除外する。血中腸内細菌の検出は 既報(Appl. Environ. Microbiol. 75: 1961-1969, 2009)にしたがってYIF-SCAN(ヤクルト中央研究所)にて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に神経性やせ症患者の血中腸内細菌の検出を計画している。その解析および血清マーカーの検出、解析に費用がかかり、その費用に充てるため。
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次年度使用額の使用計画 |
被験者となる神経性やせ症患者、健常者を選出し、血中腸内細菌の有無および体重増加にともなう菌血症の変化について検討する。さらに血中の炎症性マーカーとの関連について解析を加える。
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