1年以上の交感神経β受容体遮断薬の服用歴がある乳がん患者は服用歴がない患者と比べて予後が良いとの統計結果が報告されている。しかしながら、乳がんの予後改善における交感神経β受容体遮断薬の詳細な機能は不明であると同時に臨床では予後改善を目的として使用されていない。昨年度は原発巣における交感神経の機能解析を行い、原発巣において交感神経は血管新生に関与し腫瘍の増大に寄与していることが明らかとなった。今年度は転移巣における交感神経に着目し機能解析を行った。神経毒6-OHDAをマウスに投与し可逆的に交感神経を消失させ、転移前微小環境形成における交感神経の機能解析を行った。その結果、骨髄由来免疫抑制細胞の肺への遊走が低下し、炎症性サイカイン群の発現が低下していた。次に炎症サイトカイン群の発現における交感神経の機能を検討したところ、交感神経はマクロファージと直接相互作用していること、また交感神経β受容体アゴニストがマクロファージに作用し炎症サイトカイン群の発現を誘導することがあきらかとなった。 今後はβ1-β3の各交感神経β受容体のノックアウトマウスまたは各β受容体特異的阻害剤を用いてβ1-β3のどの交感神経受容体が転移に寄与しているのかを明らかにしていく予定である。また、肺の透明化処理および共焦点顕微鏡を用いた観察により3次元的な交感神経ネットワークの観察に成功しており、詳細な転移微小環境における交感神経の機能の解明が期待できる。
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