メタロプロテアーゼNardilysin (Nrd1)は、ADAMプロテアーゼの活性を介して、TNF-α、EGFファミリーを活性化する。また、Nrd1は核内でNCoR/SMRT複合体と協調してHDAC活性、転写を直接制御する。そこで本研究では、癌細胞の「内と外」で複数の因子を一括して制御するNrd1が果たす役割を検討することとした。 平成29年度には、(1)癌微小環境でNrd1が活性化するサイトカイン・増殖因子ネットワークの解明のため、マウス腸腫瘍の上皮と間質の細胞とをわけて、代表的なシグナル伝達系の活性化状態を検討した。すなわち、Nrd1トランスジェニックマウスに加えて、新たに作出したNrd1 floxed KOマウスとVillin-cre、LysM-cre等のcreマウスとの複合変異マウスを用いて、AOM/DSS投与による炎症性腸腫瘍形成を検討した。また、ApcMinマウスとの交配も行い、非炎症環境下での腸腫瘍形成に及ぼすNrd1の影響を解析した。(2)核内でのNrd1によるヒストン修飾を中心とする転写制御機構の解明のため、Nrd1トランスジェニックマウスの腸腫瘍、およびNrd1ノックダウンを行ったヒト大腸癌細胞株を用いて、HDAC阻害を組み合わせて、Nrd1下流の遺伝子発現の変動をRNAレベルで検討した。さらにスフェロイド培養系でもNrd1の発現量とクラスI HDAC阻害がもたらす抗癌効果の相関を検討した。 これらの研究を通じて、Nrd1を中心とした多岐にわたるサイトカイン・増殖因子ネットワークの活性化機構を明らかにし、ヒストン修飾を中心とするNrd1の核内転写制御機構も含めて、Nrd1が大腸癌進展をもたらすメカニズムを学術的に探究することができた。
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