研究課題
我々は、腸管障害と代謝異常との関連を研究する過程で、偶然、DSS負荷による大腸炎を発症したマウス腸管において、Pin1のタンパク量が40-50倍にも上昇していることに気付いた。免疫染色を行うと、Pin1の高発現細胞は、血球系細胞と間質系細胞の両方に認められ、腸上皮においてもPin1の発現量は有意に増加していた。次に、我々は、この著増しているPin1がDSS惹起潰瘍性大腸炎の発症に関与している可能性を考慮し、野生型マウスとPin1 KOマウスに3% DSS含有水を7日間飲水投与した後にマウスより大腸を摘出した。野生型マウスでは、DSS投与により高度な大腸炎が惹起され大腸上皮の壊滅的損傷が認められたのに対し、Pin1 KOマウスではDSS投与による上皮組織の損傷が抑制され(杯細胞の維持等)、炎症性サイトカインの上昇、活性型カスパーゼの上昇(アポトーシスのマーカー)もすべて抑制されていた。これらの結果は、Pin1の発現増加がIBDの発症に関与している可能性を強く示唆するものである。続けて、腸管上皮特異的なPin1 KOマウスを作製したが、これはIBDを正常マウスと同様に発症した。これに対し、骨髄移植によって、血球系細胞のPin1を欠失させたマウスを作製したところ、このマウスはIBDの発症に抵抗性を示した。従って、炎症系細胞のPin1がIBDの発症に関わっている可能性が示唆された。Pin1 KOマウスが正常な腸管機能を有していることを考慮すると、腸管にPin1阻害薬を作用させた場合、正常な腸管機能に影響を与えず、潰瘍性大腸炎の改善が期待できるのではないかと期待できる。
2: おおむね順調に進展している
全身的なPin1 KOマウスに加え、各細胞特異的なPin1 KOマウスも作製することが出来、これを実験に用いることで、血球系細胞のPin1が重要であることを突き止めることが出来た。ここから、腸管上皮下に浸潤している血球系細胞において、Pin1の役割を解明するkとが重要と考え、精力的に研究を進めている。従って、順調な進行状況である。
(1)腸管上皮下に浸潤している血球系細胞におけるPin1の役割を解明する。(2)Pin1の新規阻害薬を、薬学部のグループと開発し、これをマウスに投与することで、IBDの発症が抑制できるかを検討する。(3)ヒトIBD患者の病変部位におけるPin1発現量の検討:広島大学付属病院で診療を受けた潰瘍性大腸炎患者及びクローン病患者からのbiopsyサンプルを用いて、Pin1に対する免疫染色を行い、発現量を測定する。消化器内科のグループの協力を得て、病巣のPin1発現量と年齢、性別、体重、治療薬剤などとの相関性について、調査する。
殆ど、問題なく使用してきたが、年度末に8,122円余ったため、次年度の使用となった。
額は、8,122円と小さく、一般的な実験遂行のための経費として用いる。
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