研究課題
高齢化社会を迎えた現在、心筋梗塞、脳梗塞などの血管の老化に伴う疾患のメカニズムを解明することは急務である。こうした疾患は、血中を流れる単球が血管内皮細胞の壁に接着因子を介して結合するところから病態が進行すると考えられている。申請者はこれまでに、動脈硬化の形成に特に重要な血管内皮細胞接着因子Vascular Cell Adhesion Molecule-1 (VCAM-1)がInterleukin-4 (IL-4)によって持続的に誘導されること、その際に重要な新規エンハンサー領域が存在すること、を報告してきた(Tozawa H, Kanki Y et,al 2011 MCB)。本研究は、近年遺伝子の発現制御のみならず翻訳制御にも関わることが分かってきているmicro RNA (miRNA)に着目し、動脈硬化との関連を調べ、接着因子の発現を抑制するものから新規のバイオマーカーや創薬に使えるものを検索することが目的である。初年度にあたる平成28年度は、ヒト血管内皮細胞のモデルとしてヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells; HUVEC)を用いて、Tumor Necrosis Factor-alpha (TNF)やIL-4刺激を行い、発現の変動するmiRNAをmiRNAアレイを用いて網羅的に検出した。その結果、動脈硬化と相関のありそうな候補となるmiRNAを複数個同定した。その中から血管内皮細胞に恒常的に発現しているものに着目し、強制発現を行うと、接着因子であるVCAM-1、ICAM-1、E-selectinなどの発現が減少することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画において、初年度は動脈硬化の発症に関与するmicro RNAを同定することが目的であり、現段階で候補となるmiRNAを複数見出している。更にその機能アッセイにおいて、単球接着に実際に影響をあたえることも確認しており、概ね研究は順調に進行していると考えられる。候補となるmiRNAの同定に関しても研究計画の予定通り、HUVECにTNF刺激、IL-4刺激を行った際のmiRNAアレイから同定を行った。次の段階としてはmiRNAの標的mRNAが接着因子そのものか、何か別の因子を介在して接着因子の発現に影響を与えているかの検討であり、それに関してはmiRNAデータベースであるTraget Scanから、直接ではないことが分かっている。見出したmiRNAが間接的に接着因子を制御しているとすると、転写因子かエピゲノム修飾因子が最も考えやすく、その絞込に関しても順調に進んでいることから、平成28年度に関しては、概ね研究計画通りと言える。
上記で見出したmiRNAによって、接着因子の発現が間接的に制御されていることが分かっており、次の目標としてその標的因子の同定を行う。特に本研究ではmiRNAによって引き起こされるエピゲノム変化に着目しているため、次年度はHUVECにTNF刺激を行った際の各種ヒストン修飾抗体を用いたChIP-seqを行う。エピゲノム変化は遺伝子発現変化に先行して起こると考えられるため、TNF刺激後0分、30分のサンプルでH3K4me3やH3K27me3、H3K9me3のChIP-seqを行い、重要な制御領域での変化を解析する。その結果をTarget Scanと照らし合わせて、miRNAと接着因子の発現を結びつけるヒストン修飾酵素を同定する。同定したヒストン修飾酵素の阻害剤を用いた実験を動脈硬化モデルマウスで行い、その発症、進展を観察する。実験の進捗状況によっては血管内皮細胞特異的なコンディショナルノックアウトマウスの作成も行う。
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Nucleic Acids Research
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10.1093/nar/gkx159.
http://www.ric.u-tokyo.ac.jp/res/res20170328.htm