研究課題/領域番号 |
16K15438
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神吉 康晴 東京大学, アイソトープ総合センター, 助教 (00534869)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | small RNA / 動脈硬化 / 血管内皮細胞 / 接着因子 / ヒストン脱メチル化酵素 |
研究実績の概要 |
高齢化社会を迎えた現在、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの血管の老化に伴う疾患のメカニズムを解明することは急務である。こうした疾患は、血中を流れる単球が血管内皮細胞の壁に接着因子を介して結合するところから病態が発症、進行すると考えられている。申請者はこれまでに、動脈硬化の形成に重要な血管内皮細胞接着因子Vascular Cell Adhesion Molecule-1 (VCAM-1)がInterleukin-4 (IL-4)やTumor Necrosis Factor-alpha (TNF-a) によって持続的に誘導されること、その際に重要な新規エンハンサー領域が存在すること、を報告してきた (Tozawa H, Kanki Y et,al 20 11 MCB、Papantonis A, Kanki Y et al 2012 EMBO J)。 本研究では、特定のmiRNAが動脈硬化の発症と関与している仮説を立て、その下流のパスウェイを調べた。2年目にあたる平成29年度は、初年度に見出したmiRの標的となる遺伝子を同定した。その結果、同定されたのは2つのヒストン脱メチル化酵素であり、これらが接着因子のエピゲノム修飾を変化させることで、接着因子の発現を誘導していることを見出した。更に、この2つのヒストン脱メチル化酵素の結合する領域を調べるために、ChIP-seqを行った。結果、炎症性刺激が血管内皮細胞に及んだ際に惹起される遺伝子発現誘導に深く寄与していることが明らかとなった。 これらの成果は、特定のエピジェネティクス因子が動脈硬化の発症に寄与しているという世界で初めての知見を提示することとなった。先進国における血管疾患の重要性を鑑みるに、今回明らかにしたメカニズムは基礎分子生物学的にも臨床医学的にも意義の高いものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画において、2年目は初年度に見出したmiRNAの標的となる遺伝子を同定し、その動脈硬化に対する役割を明らかにすることが目的であった。現時点で、2つのヒストン脱メチル化酵素を標的として見出しており、更に、その結合部位に関しても次世代シークエンサーで同定できていることから、概ね研究は順調に進行していると考えられる。 miRNAの標的となる遺伝子に関しては、RISC複合体のコアタンパク質であるAGO2に対する抗体を用いたRNA免疫沈降実験によって明らかにした。このやり方は、従来のin sillicoのデータベースからの予想と組み合わせることで、より正確に文脈依存的なmiRNAの標的遺伝子を同定することが出来ると考えられる。 また、2つのヒストン脱メチル化酵素の動脈硬化に対する役割については、in vitroではあるが、siRNAを用いたノックダウン実験によって、単球接着に寄与していることも見出した。 上記の点を鑑みるに、平成29年度に関しては、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回同定した2つのヒストン脱メチル化酵素が単球接着に寄与していることは、既にin vitroの単球接着アッセイによって確認されている。そこで、最終年度はこれら2つの酵素が実際にマウス個体での動脈硬化の発症や進展に寄与しているかどうかの検討を行う。 また、それとは別に分子生物学的な詳細なメカニズム解析も行う。これまでに、炎症性刺激であるTNF-aを血管内皮細胞に添加すると、NF-kB (p65) パスウェイが駆動され、接着因子の発現をオンにすることが知られている。本研究で見出した2つのヒストン脱メチル化酵素が、このNF-kBの結合サイトとどのような相関があるのか、また、これによって形成されるスーパーエンハンサーや染色体構造とどのような関係があるのか、についてChIP-seq、Hi-Cなどを用いた解析を行う。 これまで、スーパーエンハンサーや染色体構造に関しては、細胞分化やがん細胞で詳細に検討されてきたが、本研究で明らかにしようとしているような、終末分化した細胞での知見はほとんどない。これら実験を行うことで、慢性疾患の発症の起点となるエピジェネティクス変化の機構の一端を明らかにすることが期待される。
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