研究実績の概要 |
高齢化社会を迎えた現在、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの血管の老化に伴う疾患のメカニズムを解明することは急務である。こうした疾患は、血中を流れる単球が血管内皮細胞の壁に接着因子を介して結合するところから病態が発症、進行すると考えられている。申請者はこれまでに、動脈硬化の形成に重要な血管内皮細胞接着因子Vascular Cell Adhesion Molecule-1 (VCAM-1)がInterleukin-4 (IL-4)やTumor Necrosis Factor-alpha (TNF-a)によって持続的に誘導されること、その際に重要な新規エンハンサー領域が存在すること、を報告してきた (Tozawa H, Kanki Y et,al 20 11 MCB、Papantonis A, Kanki Y et al 2012 EMBO J)。本研究では、特定のmiRNAが動脈硬化の発症と関与している仮説を立て、その下流のパスウェイを調べた。最終年度にあたる平成30年度は、この2年間で見出した新規miRNA、その対象となるmRNAであるKDM7A, UTXの機能解析を行った。これら2つの遺伝子はヒストン脱メチル化酵素である。そこで、TNF刺激前後でのヒストン修飾解析をChIP-seqを用いて行ったところ、刺激応答性に抑制系ヒストン修飾が外れていることが分かった。また、同時に行った染色体構造網羅解析手法であるHi-Cの結果から、重要な接着因子であるVCAM1、IL8の遺伝子座では刺激後わずか30分程度で、KDM7AやUTXの結合領域を中心にゲノム3次元構造が変化することが分かった。これらの成果は、3次元ゲノムとmiRNA、3次元ゲノムと慢性疾患、を繋ぐ世界でも例をみない成果であり、エピジェネティクスのみならず臨床医学的にも大きな意義のある研究となった。
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