研究課題
本研究では、COPD肺細胞におけるエピゲノム変化、ニトロ化ストレスによるエピゲノム変化、活性硫黄分子種の役割の解明、の観点から研究を遂行している。1) COPD肺細胞におけるエピゲノム変化:COPDの肺細胞におけるエピゲノム変化の詳細は明らかになっていない。本研究では肺胞マクロファージのエピゲノム変化を明らかにすることを目的に研究を開始した。その研究の途上で、肺胞マクロファージでは細菌貪食に関わるCD169 (Siglec-1)の発現が低下していることが明らかになった。COPD患者由来の肺胞マクロファージでは細菌の貪食能が低下していることが報告されていることから、今回得られた知見は、その機序を解明する手掛かりになる可能性がある。一方で、肺胞マクロファージは採取および精製が煩雑であることから、比較的扱いやすい患者由来の気道上皮細胞や肺線維芽細胞を用いて検討を行っている。2) ニトロ化ストレスによるエピゲノム変化:COPDの気道や肺では過剰なニトロ化ストレスが生じており、エピゲノム変化に影響を及ぼしている可能性がある。COPD患者においてニトロ化ストレスによりヒストンのニトロ化が亢進しているかを検証するために、前段階として健常者とCOPD患者から肺組織を集め、肺線維芽細胞を純化培養保存し解析準備を進めている。免疫沈降抗体法を用いてヒストン蛋白のニトロ化を検証したところCOPD患者由来の肺線維芽細胞ではヒストンのニトロ化が亢進していることが明らかになった。3) 活性硫黄分子種の役割の解明:我々はCOPD患者由来の肺細胞や気道被覆液では、内因性の新規還元物質である活性硫黄分子種の産生が低下していることを明らかにした。この結果は、Thorax誌に掲載された(Numakura T et al, Thorax 2017; 72: 1074-1083.)。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目標は、肺構築細胞の機能面から見たCOPDの肺細胞におけるエピゲノム変化の解明と新規還元物質である活性硫黄分子種の役割の解明である。前者に関しては、肺胞マクロファージのエピゲノム解析を行う際に、細菌貪食に関わる受容体であるCD169の発現が低下していることが偶然、明らかになった。COPD患者のマクロファージでは細菌貪食能が低下していること、感染による増悪がCOPDの予後を左右することから、本分子の機能解析を行っているところである。またCOPDの臨床病態(呼吸機能や増悪歴など)とCD169の関連を明らかにし、現在、英文誌に投稿しているところである。COPDの肺構築細胞でヒストン蛋白のニトロ化ストレスが亢進しているかを検討するため3-ニトロチロシン抗体を用いた免疫沈降を行ったところ、COPD由来の肺細胞ではニトロ化が亢進していることが明らかになった(未発表データ)。現在、ニトロ化された部位近傍の遺伝子部位の詳細をChIPアッセイを行っているところである。さらに外因性にperoxynitriteなどを投与して細胞にニトロ化ストレスを負荷した際に生じる変化と阻害剤を用いた際にこれらの変化が消失するかについて検討を行う予定である。活性硫黄分子種に関する研究は、予想以上に順調に推移している。既に結果はThorax誌(IF 8.12)に採択された。今後は、活性硫黄分子種産生酵素遺伝子欠損マウスを用いて、COPDの肺の炎症病態における役割を明らかにしていく。
本研究課題は、次年度が最終年度になる。3つの研究課題のうち活性硫黄分子種に関しては、すでにCOPD患者における測定を終了し、活性硫黄分子種の機能解析の段階である。in vitroの実験で、活性硫黄分子種ドナーは炎症性サイトカインやケモカイン、酸化ストレスによる細胞傷害を有意に抑制することを確認している。これらの結果は、現在英文誌に投稿中である。さらなる発展として、今後は、動物モデルでもCOPDの炎症病態における役割を解明していく。マクロファージに関するエピゲノム研究は、新たな病態関連分子であるCD169の発現について明らかになったので、今後もCD169の発現を調節した際に、細菌貪食能や炎症性サイトカインの産生が変化するかについて検証する。CD169の機能解析の結果も併せて、英文誌への投稿を準備中である。肺構築細胞のエピゲノム変化の検討では、ヒストン蛋白のメチル化、アセチル化を順次、確認していく予定である。さらに人員的にも新たにこの分野に対して大学院生を1名配置し、研究の推進を図り、最終的に英文誌への投稿準備を行う予定である。
今年度は既存の試薬等で研究を遂行することが可能であったため差額が生じた。一方で来年度は新たな実験計画も見込んでおり、試薬などの消耗品費として使用する予定である。
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