研究課題/領域番号 |
16K15454
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石井 幸雄 筑波大学, 医学医療系, 教授 (80272194)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 肺胞蛋白症 / リンパ球 / 転写因子 / T-bet / マクロファージ |
研究実績の概要 |
Th1細胞の分化を司る転写因子であるT-betを高発現するマウス(T-bet-tgマウス)が肺胞蛋白症を自然発症することを発見し、本年度の研究では同マウスにおける肺胞蛋白症発症機序を解析した。生後20週以降のT-bet-tgマウスの肺組織では、マクロファージ、リンパ球の高度の浸潤と共に、PAS、およびSP-A陽性の浸出物の沈着が見られ、ヒト肺胞蛋白症と類似する所見であった。同マウス肺組織におけるGM-CSF,および同受容体の発現は野生型マウスと差を認めなかった。同マウスの気管支肺胞洗浄液ではIFNγ、TNFα、MCP-1が増加しており、Th1型炎症が生じているものと思われた。野生型マウスのマクロファージの殆んどがCD11mid,CD11c陽性の肺胞マクロファージであったのに対し、T-bet-tgマウスのマクロファージはCD11b陽性、CD11c陰性であり、NOS2,IL-12,IFNγなどのM1関連遺伝子の発現亢進を伴う炎症性(M1)マクロファージであった。同マクロファージは実際に野生型マクロファージに比べ、イムノビーズの取り込みやPPARγ、およびABCG1の発現が低下していたことから、貪食能、脂質処理能の低下したマクロファージであることが示唆された。さらに単球系細胞を末梢血で調べてみると、T-bet-tgマウスではCD11b陽性、Ly6c陽性を示す未熟な炎症性単球が有意に増加していた。以上より、T-bet-tgマウスではGM-CSFシグナリングの異常を認めず、ヒト自己免疫性肺胞蛋白症と異なる機序で病態が形成されるものと思われた。T-bet高発現によってもたらされるTh1環境が末梢血単球の成熟を障害し、肺組織におけるマクロファージのフェノタイプを変化させることが肺胞蛋白症形成の一因と思われた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究の研究期間は3年を想定し、1年目には肺組織、肺胞マクロファージ、骨髄・血球細胞に焦点をあて、T-bet-tgマウスのフェノタイプの詳細な解析を行うこと、加えて変動遺伝子の網羅的検索、クラスタリングを行うことで肺胞蛋白症に関わるT-bet標的遺伝子群を特定することを計画した。肺組織、肺胞マクロファージ、末梢血の解析、および変動遺伝子の網羅的解析を行い得たことより、上記判断とした。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、まずT-bet-tgマウスの骨髄レベルの異常の検索、骨髄細胞のフェノタイプ解析を行い、発症機構の解明をはかる。さらに、T細胞特異的なT-bet発現系を作成し、同モデルの肺胞蛋白症がT細胞レベルの修飾で起こり得るか確認したい。加えて同モデルにおけるM-CSFの肺胞蛋白症治療効果についても確認し行きたい。 当該モデルはGM-CSFシグナリングの異常を伴わず、ヒト続発性肺胞蛋白症に類似することから、同症患者の臨床検体でマウスと同様のフェノタイプが見られるかを確認していきたいが、同症は稀少疾患であり、十分な検体が得られるかが研究を遂行する上での課題である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況に記したように、本年度の研究計画のうち、骨髄レベルの異常の検索について次年度に移行したため、その分の物品費に差が生じた。また物品のうち、ディスポーザブル器具について本年度は既存のものも使用できたことも一因である。
|
次年度使用額の使用計画 |
差額分は、可能であれば次年度に移行した骨髄レベルの異常の検索実験のための器具、および動物費用に使用したい。
|