本実験計画に基づき、アスピリン喘息の合併が多い好酸球性副鼻腔炎の患者より、手術検体として採取した鼻茸より、セルソーターを用いて組織好酸球を単離した。単離した好酸球の溶解液もしくは刺激上清を用いて、網羅的解析(プロテオミクス・トランスクリプトミクス・リピドミクス)を施行した。 脂肪酸代謝物では、プロスタノイドとリポキシンに代表される15-リポキシゲナーゼ代謝物の産生量が減少していた。一方でシステイニルロイコトリエン代謝においては、LTC4、LTE4の産生が減少し、LTD4の産生のみが亢進する特徴的な変化が認められた。 蛋白の発現量では、好酸球に特異的な顆粒の含有量には大きな変化が認められなかった。脂肪酸代謝酵素の中では、LTC4をLTD4に変換するGGT5の発現量が顕著に増加し、一方でLTD4をLTE4に変換するDPEP2の発現量は減少していた。GGT5とDPEP2の酵素の変化により、LTD4が特異的に増加する変化がもたらされることが示唆された。他の脂肪酸代謝酵素では、FLAPの増加と15-リポキシゲナーゼの減少が認められていた。上記の蛋白量の変化は、mRNAの発現パターンとも一致していた。 トランスクリプトーム解析データを用いてパスウェイ解析を施行した。Type 2サイトカイン依存的な炎症経路の関与とともに、パターン認識受容体を介したシグナルの活性化が示唆された。上記の解析結果に基づき、Type 2サイトカインやパターン認識受容体のリガンドで健常者の末梢血由来の好酸球を刺激すると、鼻茸由来の好酸球と同様の脂肪酸代謝異常が誘導された。 以上の結果より、炎症細胞特異的な脂肪酸代謝異常が好酸球性副鼻腔炎患者の鼻茸に存在することが証明された。脂肪酸代謝異常を是正することが炎症を制御することに寄与する可能性が示唆され、今回同定された誘導因子も治療標的として有用であると考えられた。
|