研究課題/領域番号 |
16K15466
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丸茂 丈史 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (70265817)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
糖尿病性腎症でみられるエピゲノム異常の成立メカニズムを1細胞解析法を用いて解明することを本研究の目的としている。エピゲノム異常を予防・治療することにより、糖尿病性腎症の進行を抑制することができると考えられる。 初年度である本年度は1細胞でのmRNA解析の手法確立と、候補遺伝子の選定を進めた。コントロールマウス腎臓をメディコーンシステムで処理したのちソーターを用いて近位尿細管を単一細胞に分離した。単一細胞用のキットによりcDNAを作成しqPCRで候補遺伝子の発現が検出可能であることを確認した。しかしこの際、臓器から単一細胞を分離する過程で生じるデブリスの混入が解決課題として残った。 単一細胞解析条件設定に並行して、コントロールおよびdb/dbマウスの近位尿細管細胞mRNAのマイクロアレー解析結果から、単一細胞解析のための候補遺伝子を抽出した。近位尿細管特異的遺伝子としてHnf4a, Sglt2、エピゲノム異常を来すAgt, Metなどに着目して検討を進めた。 エピゲノム異常下流の検討のため、ヒトでDNAメチル化と発現が変化することが知られているHSD11b2について腎臓特異的なKOマウスを作成し、高血圧の原因になることを報告した(Hypertension in press)。 次年度にむけて、単一細胞解析により安定した結果が得られる条件設定を進めるとともに、エピゲノム異常の成立メカニズム解明のため、培養細胞を用いて検討を行うこととした。エピゲノム異常を呈する遺伝子Agtを標的として、培養ヒト近位尿細管細胞に各種糖尿病刺激、ならびに代謝経路の抑制薬・siRNAを添加し、Agt発現を変化させる代謝異常の同定を進めた。また、メサンギウム細胞でのエピゲノム異常の同定に向けて、db/dbマウスに生じるDNAメチル化変化の検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コントロールマウスから単一細胞を分離し、qPCRにより解析する実験系を確立させた。一方、単一細胞とデブリスの判別が困難であるという問題も認識された。来年度にむけて、この問題をどう解決するかが課題として残った。さらに近位尿細管細胞mRNAの網羅的解析結果からエピゲノム異常成立に関連する遺伝子の抽出を進めることができた。また、メサンギウム細胞の異常、ならびに培養細胞を用いた解析にも着手した。
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今後の研究の推進方策 |
1細胞でのmRNA解析の手法をより安定させて、コントロールマウスとdb/dbマウスの近位尿細管細胞mRNAの比較を進める。当初はqPCRで進め、安定すればRNA sequencingを行う。系が安定しない場合は、複数細胞での解析を行うこととしてsubpopulationの分離法の確立を進める。さらに得られたマイクロアレーの結果からエピゲノム異常に関わると思われる代謝異常の候補の抽出とその検証を進める。 さらに、最終目標であるエピゲノム異常成立機構の解明にむけて、培養細胞を用いた検討を並行して進める。これらの結果に基づいて動物実験で異常成立の過程を実証する。また、糸球体硬化と蛋白尿出現に関わると思われるメサンギウム細胞でのエピゲノム異常の解析、ならびにヒト組織を用いた解析を開始する。laser microdissectionを用いた解析も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は実験系のセットアップならびに、これまでに得られたマイクロアレーデータなどの解析を進めたため、新たに消耗品を使用する機会が当初計画よりも少なく進めることができた。なお、組織からの特異的な構成成分ごとの抽出は、キットの使用をせずにすむLaser microdissctionによる手法を用いたところ、時間はかかるものの確実性をあげることができた。本手法を併用することにしたため、当初の予算を次年度以降に回すことができた。
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次年度使用額の使用計画 |
本格的な解析を1細胞用のキットを使用して進める。高価な1細胞用のキットを用いない手法によりエピゲノム異常の原因となる分子を同定する検討も同時に進める。
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