研究課題
本研究は糖尿病性腎症にみられるエピゲノム異常とその成立メカニズムを解明し、それを診断・治療法の開発に応用することを目的としている。1細胞解析技術を用いてmRNAレベルの解析を進めたところ、安定して解析できるmRNAは、ある程度の発現量がある遺伝子に限られることが判明した。一方、エピゲノム異常が生じる遺伝子は、病的意義をもつ可能性が高いものの、必ずしも発現量が多い遺伝子に限られない。そこで、1細胞解析技術に準拠したサブポピュレーションの解析を進めることとした。本年度は1)ソータによる近位尿細管細胞の収集によるマウスの解析、2)メサンギウム細胞をプライマリーカルチャーして選択的に収集したうえでのマウスの解析、3)レーザーマイクロダイセクションにより、S3近位尿細管細胞を分取したヒトサンプルの解析を進めた。その結果、糖尿病モデルマウスdb/dbの近位尿細管では核内レセプターPXRのプロモータ部位に脱メチル化が生じ、その結果PXRの発現が持続的に上昇していることが明らかになった。PXRの腎臓での作用は明らかでなかったが、検討の結果、糖新生酵素PCK1や線維化因子RGC32などの発現を上昇させることがわかり、糖尿病性腎症の進展に関与する可能性が示唆され論文発表した(Am J Physiol Renal Physiol 314, F551, 2018)。メサンギウム細胞を用いた検討では、糖尿病マウスでは線維化因子TGFbetaのプロモータ部位が脱メチル化していることが明らかになり、培養細胞実験系を併用して分子メカニズムを含め現在論文を投稿中である。ヒト腎臓のDNAメチル化情報はいまだ報告が乏しく、近位尿細管を選択的に採取し、解析を進め、複数の選択的脱メチル化部位を同定した。併せて糖尿病患者の尿中DNAメチル化を計測し、診断的な利用ができるか検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
1細胞解析技術に準拠したサブポピュレーションの解析の体制を整えて、研究の目的であるエピゲノム異常とその成立メカニズム解明を進めることができた。動物モデルとして、メサンギウム細胞と近位尿細管細胞での知見を発表してきている。さらに、レーザーマイクロダイセクションを用いた腎臓尿細管の解析結果に基づき、糖尿病患者には尿中エピゲノム異常が生じていることを示唆するデータが得られてきており、診断的利用を目標に研究を進めている。
メサンギウム細胞を用いた検討により、エピゲノム異常に至る分子機構を明らかにする。さらに、培養細胞を用いた結果が生体内で同様に有効であるかどうか、薬物治療により異常が抑制できるかどうかモデルを用いて検討する。また、マウスのサブポピュレーションの解析で得られた情報に基づいてヒト糖尿病性腎症組織での異常の検討を進め、治療法の基盤とする。ならびに尿での糖尿病によるエピゲノム異常を明らかにし、DNAメチル化異常と臨床データとの相関があるかどうか検討し、新たな診断法へむけた基盤とする。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 4件)
Am J Physiol Renal Physiol.
巻: 314 ページ: F551-F560
10.1152/ajprenal.00390.2017
J Am Soc Nephrol
巻: 29 ページ: 57-68
10.1681/ASN.2017030243
腎と透析
巻: 84 ページ: 185-189