研究実績の概要 |
本研究は糖尿病性腎症にみられるエピゲノム異常とその成立メカニズムを解明し、それを診断・治療法に応用することを目的としている。1細胞解析技術を用いてmRNAレベルの解析を進めたところ、安定して解析できるmRNAは、ある程度の発現量がある遺伝子に限られることが判明した。そこで本年度は、1細胞解析技術に準拠したサブポピュレーションの解析を進めた。 昨年度の近位尿細管の成果に続き(Am J Physiol 2018)、マウスメサンギウム細胞をサブポピュレーションとし糖尿病での変化を解析した。メサンギウム領域拡大に関与するTGF betaが糖尿病で脱メチル化し、発現の亢進が持続することが明らかになった。メチル基供与体となる葉酸を投与することにより、糖尿病でのTGF betaの脱メチル化と発現亢進は抑制されることが明らかになった。この結果は、エピジェネティック異常が治療標的になりうる可能性を示唆するものである。これらの所見を論文発表した(Sci Rep 8, 16338, 2018)。 さらにDNAメチル化情報が乏しいヒト腎臓の近位尿細管を選択的に採取し、Illumina Infinium EPICキットによる解析を進め正常近位尿細管のメチロームデータを取得した。つぎに腎臓のほかの構成成分および膀胱上皮と比較し、ヒト近位尿細管特異的なメチル化部位を同定した。糖尿病罹患者のうち腎臓機能障害がみられる症例の尿中には、障害された尿細管細胞が落下し、尿中には、尿細管細胞の増加を反映したエピゲノム異常が尿中に生じていることが考えられた。そこで糖尿病症例の尿中で近位尿細管特異的なメチル化値を測定したところ、eGFRが減少している症例で近位尿細管特異的なメチル化パターンに近づいていることが明らかになった。尿中の近位尿細管特異的なメチル化値の解析により腎機能悪化症例を層別化できる可能性が示唆された。
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