研究課題/領域番号 |
16K15477
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
平井 宏和 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (70291086)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | CRISPR/Cas9 / 小脳 / プルキンエ細胞 / アデノ随伴ウイルスベクター / 脊髄小脳失調症 |
研究実績の概要 |
本研究では、GFPマウスを用いて、小脳プルキンエ細胞、アストロサイト、抑制性ニューロン、運動ニューロン特異的にゲノム編集が可能であることを、細胞種特異的にGFP発現抑制を指標として証明し、この技術を用いて脊髄小脳失調症1型(SCA1)モデルマウスの変異Ataxin-1をノックアウトすることでSCA1が治療できることを示すことを目的としている。遺伝子異常に起因する中枢神経系疾患の真に根本的な遺伝子治療に向けて大きな意義をもつと考えられる。 本年度は、 1) Tetracycline response element (TRE) 配列をもつ最小プロモーター (minimal promoter)の制御下でSpCas9を発現するAAV9ベクター 2) U6プロモーター制御下でGFP遺伝子をターゲットとしたguide RNA(gRNA)、さらに細胞種特異的プロモーター(プルキンエ細胞選択的MSCVプロモーター)制御下でtetracycline transactivator (tTA)を発現するAAV9ベクター 3) gRNAは発現せず、細胞種特異的プロモーター制御下でtTAのみ発現するAAV9ベクター を作成し、1)と2)の2種類のAAVベクターを混ぜてL7-GFPマウス(プルキンエ細胞特異的L7プロモーター制御下でGFPを発現)の小脳に投与した。コントロールとして、1)と3)を混ぜて投与した。小脳切片を作成して解析したところ、GFPの発現低下がみられた。そこで、Ataxin-1をターゲットとするgRNAを用いて、同様の実験をSCA1モデルマウスを用いて行なった。運動失調をロータロッドを用いて継時的に観察したが、改善は見られなかった。そこで、小脳からRNAを抽出し、逆転写PCRを行なってシークエンスを行なったが、Ataxin-1遺伝子の意図した部分のゲノム編集は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
L7-GFPマウスを用いたゲノム編集の実験で、プルキンエ細胞のGFP蛍光の消失が観察されたためゲノム編集が起こっていると考え、SCA1モデルマウスを用いた治療実験へ進んだ。しかし、期待した運動失調の改善が見られなかったため、その部位のゲノム配列を調べたところ、ゲノム編集が起こっていないことが明らかになった。GFP蛍光の低下でゲノム編集を判断していたが、それでは不十分であった。そのようなことで、実験を繰り返す必要があり、計画よりやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究でゲノム編集がうまく起こっていなかったのは、Streptococcus pyogenesに由来する長いSpCas9(1368残基)を使ったため、アデノ随伴ウイルスベクターのパッケージング限界を超え、SpCas9がほとんど発現していなかった可能性が考えられる。そこで今年度はStaphylococcus aureusに由来する短いSaCas9(1053残基)を用いて、再度実験を行うことを計画している(SaCas9はSpCas9とは異なるガイド鎖RNAと協働し標的DNAを切断することも知られている)。ゲノム編集が起こっているかの参考として今年度もGFP蛍光を用いるが、今回は必ずゲノムをシークエンスし、ゲノム編集が起こっていることを確認したのちに、SCA1マウスを用いた遺伝子治療実験に進むこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に完了するはずであった計画(生体マウス小脳プルキンエ細胞におけるゲノム編集の確認)が、うまく行かなかったため、平成29年度に再度行う必要が生じた。昨年度はStreptococcus pyogenesに由来する長いSpCas9(1368残基)を使ったことが失敗の原因であった可能性があり、今年度はStaphylococcus aureusに由来する短いSaCas9(1053残基)を用いる。
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次年度使用額の使用計画 |
分子生物学の酵素やDNA精製キットなどの消耗品、アデノ随伴ウイルスベクター作成のためのプラスチック器具、血清を含む培養消耗品、マウス飼育費に使用する。
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