研究課題
T細胞リンパ腫は、造血前駆細胞がエピゲノムに関する遺伝子変異を獲得することで「前がん細胞」となり、これに「腫瘍特異的な遺伝子変異」が積み重なることにより腫瘍細胞へと進化するという「多段階的発がん」モデルがにより発症すると考えられつつある。T細胞リンパ腫組織には、腫瘍細胞とともに、免疫細胞が極めて顕著に浸潤している。浸潤する免疫細胞は、腫瘍を支持する環境を提供している可能性がある(「支持環境細胞」)。従来は腫瘍細胞から放出されるサイトカインやケモカインに対する「反応性変化」と捉えられてきた。レーザーマイクロダイセクション法により腫瘍組織から腫瘍細胞の指標としてPD1陽性細胞を抽出し、浸潤する免疫細胞の一つであるB細胞をCD20を指標として抽出した。さらに、遺伝子変異の有無を調べた。PD1陽性細胞には、予想されたように「前がん細胞」でみられる遺伝子変異に加えて、腫瘍細胞特異的とされるRHOA変異を認めた。一方、CD20陽性細胞には、「前がん細胞」と同様のエピゲノム変異がみられた。さらには、NOTCH1変異をはじめとする複数の遺伝子変異がみられ、これらは腫瘍細胞にはみられなかった (Blood Cancer J, 2017)。これらの結果から、T細胞リンパ腫に浸潤する細胞は、単なる反応性変化ではなく、積極的にクローン選択により進化していると考えられた。現在、「支持環境細胞」による腫瘍発症促進のメカニズムを明らかにするため、モデルマウスを作製している。
2: おおむね順調に進展している
T細胞リンパ腫の「支持環境細胞」のクローン進化に関する報告がBlood Cancer J誌に採択された。また、支持環境細胞にTet2変異がある場合のモデルマウスとTet2変異がない場合のモデルマウスの比較により、支持環境細胞にTet2変異がある場合に腫瘍発症比率が高いことを示すプレデータを得ている。
支持環境細胞におけるクローン進化が腫瘍化促進の機序について、マウスモデルを用いて解析する。具体的には、ヒトのT細胞リンパ腫でみられるG17V RHOA変異体を発現するマウスモデルとしてCD2プロモーター下にG17V RHOA変異体を発現するトランスジェニックマウス(RHOA-Tgマウス)を樹立した。これらのG17V RHOA変異体発現マウスにTet2のコンデイショナルノックアウトマウス(TET2cKOマウス)を交配し、さらに複数のCreマウスを交配することで、T細胞でG17V RHOA変異体を発現するとともに、系統特異的なTet2遺伝子欠損を有するマウスの解析を行う。具体的には、Mx-Creマウスを交配し、pI:pCを投与することで、Tet2遺伝子の欠損を血液細胞全般で誘導する(MxCreTet2cKO-RHOATg)。あるいはCD4-Creマウスを交配することで、Tet2遺伝子の欠損をT細胞でのみ生じる(CD4CreTet2cKO-RHOATg)。これらのマウスにおける腫瘍発症を比較する。現時点までの観察で、MxCreTet2cKO-RHOATgはCD4CreTet2cKO-RHOATgに比較して、腫瘍発症比率が有意に高い。そこで、T細胞以外のTet2遺伝子欠損細胞により腫瘍発症が促進されると考えられる。機序を明らかにするため、腫瘍になったマウス、あるいは腫瘍になる前段階のマウスを用いて、腫瘍に含まれる腫瘍以外の細胞系統を網羅的に明らかにする。さらには、両マウス由来の支持環境細胞の候補となる細胞分画を分取し、トランスクリプトームの比較により腫瘍支持に影響を及ぼしうる遺伝子群をスクリーニングする。さらにはこれを阻害することで腫瘍発症支持メカニズムを明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件)
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