研究実績の概要 |
B細胞を含むすべての血液・免疫細胞は造血幹細胞から作られる。その過程で多能性の造血幹細胞は徐々に分化能が限定されていき、最終的にB細胞にしかなれない前駆細胞に運命決定される。この運命決定は様々な転写因子やエピジェネティック因子によって制御されているが、詳細は明らかでない。特に、個々の細胞レベルの遺伝子発現調節機構は不明である。申請者らは最近B細胞への運命決定における分子機構を調べることの出来る新しい分化誘導系を開発した(Ikawa et al. Stem Cell Reports,2015)。そこで本研究ではこの培養系を用いて、経時的に個々の細胞のRNA発現解析を行い、多能前駆細胞からB細胞への運命決定を制御する転写ネットワークを1細胞レベルで明らかにすることを目的とする。 本年度は研究計画に従い、マウス骨髄細胞の多能前駆細胞(LMPP)、リンパ系前駆細胞(CLP)、プロB細胞(pro-B)を用いて1細胞RNA-seq解析を行った。得られたデータをクラスタリング解析した結果、LMPP, CLP, pro-Bは完全に別々のクラスターを形成した。興味深いことに、CLPおよびpro-Bではさらに2つのクラスターに別れた。LMPPでは多能性を示す遺伝子の発現が多く見られたが、B細胞系遺伝子はほとんど発現していなかった。一方、pro-Bでは多能性を示す遺伝子発現が認められなかったが、B細胞関連遺伝子は多くの細胞で高く発現していた。このことから、通常のB細胞分化における個々の細胞の遺伝子発現パターンは人工白血球幹(iLS)細胞のB細胞分化誘導系を用いて得られた遺伝子発現パターンと類似していることが明らかとなった。従って、iLS細胞分化誘導系を用いて得られた転写ネットワークは生体内のB細胞分化においても正しいことが示された。
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