研究実績の概要 |
全身性強皮症の間質性肺疾患に対してシクロホスファミド(CYC)パルス療法が標準治療として用いられているが、同治療は炎症を抑えるのみでなく、血管障害にも作用して線維化を抑える。しかしながら、CYCが強皮症の血管障害に作用する機序はいまだ明らかにされていない。そこで、強皮症の血管障害を忠実に再現する血管内皮細胞特異的Fli1欠失マウス(Fli1 EcKOマウス)を用いて、CYCが同マウスの血管障害に及ぼす影響および作用機序を検討した。Fli1 EcKOマウスにCYCを1回投与したところ、同マウスに特徴的にみられる血管透過性の亢進が改善した。また、2週間に1回の頻度でCYCを繰り返し投与すると、6回投与終了後2週間の時点において、同マウスに特徴的にみられる血管の構造異常(細動脈の狭窄、毛細血管拡張)が改善した。血管の安定性について免疫染色で確認したところ、CYC1回投与2週間後において血管周皮細胞のalpha-SMAの発現が回復しており、血管の安定化が確認できた。同じ実験条件でin vivo Matrigel plug assayを行ったところ、新生血管の形成が改善しており、脈管形成の異常が改善している可能性が示唆された。さらに、CYC1回投与後2週間において、皮膚微小血管におけるVE-cadherin, PDGF-B, S1P1, CCN1の発現が回復しており、同時に血管内皮細胞におけるFli1の発現も回復していた。一方、強皮症患者では、CYCパルス療法後に血清CCN1濃度が上昇していた。以上より、CYCは血管内皮細胞におけるFli1の発現を回復させることにより、Fli1依存性の血管障害を改善させることが示唆された。強皮症の病態におけるFli1の重要性に鑑みると、本研究によりCYCが強皮症の血管障害に対して疾患修飾作用を発揮する機序の一端が解明されたと考えられる。
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