研究課題/領域番号 |
16K15512
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
上阪 等 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (00251554)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 自己免疫疾患 / 原発性免疫不全症 |
研究実績の概要 |
原発性免疫不全症(Primary Immunodeficiency: PID)は重症例では幼少期に診断されることが多いが、遅発例では成人期になって診断されることも稀ではない。本年度の研究では、自己免疫疾患の代表である全身性エリテマトーデス(SLE)で発症し、その後、免疫抑制治療を解除したにもかかわらず、様々な細菌感染症を繰り返した免疫不全症例を見出し、その免疫細胞サブセットと遺伝子解析を行った。 症例は、50歳女性。31歳で抗リン脂質抗体症候群を合併するSLEを発症し、中枢神経ループス症状などに対してパルス療法を含むステロイド治療、シクロフォスファミド大量間欠静注療法(IVCY)を行い、寛解導入がなされた。38歳で中枢神経ループスを再燃し、再度IVCYで寛解導入された。その後は治療強度を下げられ、少量ステロイドのみで寛解維持されていた。42歳で左下腿の緑膿菌蜂窩織炎を発症、44歳で緑膿菌菌血症、B群連鎖球菌菌血症を認め、その後も幾度も下腿蜂窩織炎の再燃を認めた(Prevotellaやメチシリン耐性黄色ブドウ球菌)。49歳で化膿性関節炎と左腓腹筋膿瘍に罹患し、腓腹筋の切開排膿術を施行したところ、創部感染を起こした。 薬剤に依存しない免疫不全状態と判断し、リンパ球サブセット解析を行なったところ、B細胞著減、NKT細胞著減、Th1/17細胞減少を認めた。表面マーカーでTh1/17の減少を認めたため、細胞内サイトカインを測定したところ、IFN-γ産生細胞は減少しているものの、IL-2, IL-4, IL-17の産生は正常だった。T/B細胞受容体遺伝子再構成産物(TREC/KREC)はどちらも陰性だった。両親を含めたトリオ解析で全エクソン解析を行ったところ、de novoで10個の遺伝子異常が認められたが、必ずしも本症例の臨床像を説明するものではなく、新たな異常が背景にあると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
挑戦的萌芽研究提案時の仮説に合致する症例を発見でき、かつその免疫サブセット異常を明らかにすることができた。強い免疫抑制治療が行われていない状態で、B細胞やNKT細胞が著減していることはPIDを疑わせる。一方、全エクソン解析では既知のPID責任遺伝子が見出されなかった。このことは、自己免疫疾患が先行するPIDが既知のPIDとは一線を画することを示している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、他にも自己免疫疾患が先行した症例のスクリーニングが進んでおり、同じ様な解析手法で細胞性免疫異常と遺伝子異常を検索する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、PID発見に先立ち自己免疫疾患を発症した症例の医療記録をスクリーニングして発見することが主な作業となった。一方で、個々の症例の免疫細胞サブセット解析を行いユニークな変化も見出されたものの、全てのエクソンの解析でも単一の責任遺伝子を同定することはできなかった。そのため、候補遺伝子の機能解析なども行ったが最終的な結果は得られなかった。以上の経過から、費用のかかる解析は次年度にまわされることとなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
初年度にスクリーニングした症例について解析をおこない、自己免疫疾患で発症したPID症例についての全容を明らかとして、新しい疾患概念を確立する。
|