研究課題
成人スチル病(Adult Still's disease; ASD)は発熱、関節痛、皮疹を主体とする難治性の自己炎症疾患であり現在日本に約5000名の 患者がいると推定されている。ASDの臨床的特徴として血清フェリチン値の著明増加が知られており、マクロファージの活性化がその 病態の中心となることが示唆されているが、発症の原因は不明であり、特異的な治療法は存在しない。そこでASD患者を対象とした次世代シーケンサーを用いた全エクソン解析を行い疾患感受性遺伝子の同定とその機能解析を行い、ASDの病態解明と新規治療薬の開発の足がかりとすることを目的とした。平成29年度は下記の通り研究を遂行した。1. ASD専門医ネットワークの形成とゲノムDNAの収集:既存の自己炎症疾患研究会(代表世話人:井田弘明 久留米大学医学部 呼吸器・神経・膠原病内科教授)や西九州自己免疫疾患研究会 (代表世話人:川上 純 長崎大学大学院医歯薬総合研究科展開医療科学教授)との連携を図り、ASDのネットワークを構築した。2. ASD生体試料バンクの構築と次世代シーケンサーによる包括的ゲノム解析:上記の専門医ネットワークを活用して収集された臨床情報、ゲノムDNA 、血清、血漿、生検組織を収集した。得られたゲノムDNAは長崎大学人類遺伝学吉浦孝一郎教授との共同研究による次世代シークエンサーを用いた全エクソン解析を行った。3. ASDと敗血症を識別する血清バイオマーカーの同定:上記コンソーシアムで得られた血清試料と敗血症患者の血清試料を用いて、両者を識別するサイトカインを同定、特許出願を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初予期していた通り、ASD専門医ネットワークの形成とゲノムDNAの収集とASD生体試料バンクの構築と次世代シーケンサーによる包括的ゲノム解析を行うことができた。今年度は血清試料を用いた成果が得られた。本研究課題はおおむね順調に進展している。
1.新規疾患遺伝子の同定 次世代シーケンサーで明らかとなったASDのDNA配列を健常人のDNA配列と比較することで新規疾患遺伝子の同定を試みる。解析においてはHardy-Weinberg平衡や多重性を考慮した解析、一般集団との変異頻度の差の検出等情報処理に注意が必要であり、この点においてはバイオインフォマティクスの生物統計家(佐藤俊太朗 長崎大学病院臨床研究センター助教)に協力を依頼する。最終的には、確定診断がついたすべてのASD患者を対象に、同定されたバリアントの有無を調べ、遺伝型式を明らかにし、遺伝子診断法の開発を目指す。2. 無細胞系インフラマソーム解析による候補遺伝子のスクリーニング 共同研究者である増本教授の施設である愛媛大学プロテオサイエンスセンター病理学部門との連携を図り、ASDの疾患遺伝子の変異体がインフラマソームの活性化にどのような影響を与えているかをin vitroの実験系にて解析を行い、インフラマソームを阻害する遺伝子を抽出する。3. 動物モデルの作成 全エクソン解析で抽出された疾患感受性遺伝子のうち、インフラマソームを活性化しうる遺伝子を選定し、その機能をin vivoで検証するため、CRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集により、目的遺伝子Xをノックアウト(KO)したマウスを作成する。
(理由)購入予定であった試薬の納品が遅れたため。(使用計画)そのため、未使用額はその試薬の購入に充てる。
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Rheumatology (Oxford)
巻: 57 ページ: 718-726
doi: 10.1093/rheumatology/kex451.