エイズウイルスNefタンパク質は、そのN末端グリシン残基がミリスチン酸修飾を受けることによりその機能(宿主免疫抑制)を発揮する。研究代表者はこのミリスチン酸修飾に起因して生成されるリポペプチド抗原が細胞傷害性T細胞の免疫標的となることを見出し、これを担うアカゲザルリポペプチド提示分子(MHCクラス1アリル)を同定した。そのX線結晶構造解析の結果、このアカゲザルリポペプチド提示分子は抗原結合溝において広く疎水性のBポケットを有し、リポペプチドのアシル鎖部分をアンカーとして収納することがわかった。今年度、第二のアカゲザルリポペプチド提示分子を同定しそのX線結晶構造を解明したところ、微細なアミノ酸構築は第一のアカゲザルリポペプチド提示分子と異なるものの、全体として広い疎水性のBポケットを有し、そこにリガンドのアシル鎖を収納することを見出した。またその細胞表面発現が小胞体ポプチドトランスポーターに依存する旧来のペプチド提示MHCクラス1アリルと異なり、これら2つのリポペプチド提示MHCクラス1アリルはペプチドトランスポーター欠損細胞においてもコントロール細胞と同等の細胞表面発現を認めた。以上の結果から、リポペプチド提示分子の特質として、1)広く疎水性のBポケットを有すること、2)ペプチドトランスポーター非依存的に細胞表面発現することを想定するに至った。この想定をもとにヒトMHCクラス1アリルを検証し、有望なヒトリポペプチド提示分子として8つのアリルを絞り込んだ。これらはBポケットのサイズを規定するアミノ酸ポジションにおいて小さな側鎖を有するアミノ酸が配置されており、さらにペプチドトランスポーター欠損細胞株においてもコントロール細胞と遜色のない細胞表面発現を認めた。これらのリコンビナントタンパク質を調整し、モデルリポペプチドリガンドを用いた結合能の評価に着手した。
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