研究課題
小頭症は、複合要因によって発症することから、その鑑別診断には困難を伴うケースが多々ある。長期間確定診断がつかない症例や、誤診を受ける患者も少なくない。遺伝性小頭症が疑われる症例では、DNA損傷応答・DNA修復システムの異常により疾患を発症しているケースが比較的多く存在することから、これらの症例に対する正確な診断のための技術開発に取り組んだ。疾患発症の原因となった異常をきたしているDNA損傷応答・DNA修復システムが異なる場合、病状を悪化させる要因や治療方針、予後予測も大きく異なることから、疾患原因を正確に突き止めることが、患者にとって非常に重要である。研究代表者はこれまで、DNA損傷応答・DNA修復システムの異常によりゲノム不安定性を示す国内外の遺伝性疾患の診断・解析を行っており、本診断ネットワークを利用して、新たに小頭症症例の収集を実施した。これらの症例は、既存の症例と合わせて、小頭症以外の病態・症状により分類を行った。我々が解析している小頭症を示す遺伝性疾患の中で、細胞レベルで確定診断が可能な疾患の代表例として、転写と共役したヌクレオチド除去修復 (TC-NER)の異常により発症するコケイン症候群があり、TC-NERの活性を簡便かつ迅速に評価するシステムを確立したことで診断を可能とした。この診断方法を基本として、簡便・迅速・正確・客観的・多検体比較可能という5つの基準をクリアするDNA二重鎖切断 (DSB)修復の活性評価法の確立に取り組んだ。
2: おおむね順調に進展している
国内外より、遺伝性小頭症の疑いがある症例を収集し、既に確立済みのヌクレオチド除去修復 (NER)活性評価法により、NER関連疾患であるかの調査を行った。NERの欠損が検出された症例は、NER関連遺伝子の野生型cDNAを組み込んだウイルスを感染させることにより、欠損したNER活性が回復するかを指標として疾患原因を特定するウイルス相補性試験を実施し、既知のNER関連遺伝子の異常による遺伝性疾患であるかの検討を行った。新たに収集した症例のおよそ半数がTC-NER欠損性のコケイン症候群であることが判明し、遺伝子変異特定までを終了した。残りのNER活性が正常であった半数の症例の疾患原因を特定するため、臨床診断に応用可能なDSB修復の活性評価法確立に取り組んだ。指標には、DSBを顕微鏡下で観察する際に頻繁に使用される、リン酸化H2AXおよび53BP1の蛍光免疫染色で検出される粒 (foci)を選択した。マルチウェルプレート上で、患者由来細胞のリン酸化H2AXあるいは53BP1を蛍光免疫染色し、自動蛍光画像取得装置を使用して、画像観察とDSBの存在を示すfociの定量を自動で実施することとした。蛍光顕微鏡を使用した目視での結果と、仕様の異なる複数の自動蛍光画像取得装置とで、同様の結果となることを条件とし、検討を行った。マルチウェルプレートを使用することで、多検体比較を可能にし、自動観察と自動foci計測により、簡便性・迅速性・客観性を実現し、自動化による人為的ミスの軽減により、正確さも高まったと考えられる。本評価法を使用したところ、放射線感受性を示す症例の抽出が可能であったことから、非常に有用な評価法と考えられた。引き続き、細胞周期を加味したDSB修復活性評価法について検討を進めているところであり、本研究は順調に進展している。
引き続き、国内外より、DNA損傷応答・DNA修復メカニズム異常による遺伝性小頭症症例の収集を進める。NER活性が正常であった症例および、既存の症例で疾患原因が特定されていない遺伝性小頭症疑い症例について、DSB修復活性評価を進める。DSB修復活性が欠損した症例を選出し、DSB修復活性を指標としたウイルス相補性試験を実施することで、疾患原因変異を持つ遺伝子を特定する。既知の遺伝子に異常が見られない場合には、次世代ゲノム解析 (exome解析あるいは全ゲノム解析)にて疾患原因の特定を試みる。並行して、指標等を再検討し、細胞周期を考慮したDSB修復活性評価法の開発に取り組む。適切な指標に細胞周期を加味することで、DSB修復の中でも、非相同末端結合 (NHEJ)と相同組替え (HR)の活性を分離して評価することが可能になると期待される。NER活性評価とDSB修復活性評価のいずれも、完全自動化には至っておらず、改善の余地が残されていることから、より一般的な手法となるよう改良を進める。
本研究にて確立したDSB修復活性評価法は、当初予定していたよりも比較的早い段階で診断に応用可能なレベルに達したため、既に遺伝性小頭症症例のスクリーニングを開始しており、このスクリーニングによって興味深い症例が複数抽出されている。これらの症例のうちいくつかはexome解析も実施済みであるが、現段階では有力な候補は得られておらず、より確実な遺伝子変異同定のため、全ゲノム解析を追加で実施する必要が生じた。効率的に全ゲノム解析を実施するため、複数の類似症例を収集する必要があり時間を要した。次年度、全ゲノム解析を実施し、疾患責任遺伝子変異同定を試みる。
追加での小頭症症例の収集にかかる経費及び、DSB修復活性評価法によるスクリーニングに使用する消耗品や試薬類などの費用のほか、次世代全ゲノム解析の候補となる症例の抽出・解析に伴う消耗品類等に使用する予定である。次世代全ゲノム解析のための候補症例が集まったのち、解析実施のための費用に充てる計画である。
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